読者とコラボ

□Love or Lost
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壁を背に、ベッドに座りながらタバコを咥えながら。
手に持った紙をビリビリとゆっくり破り、もう片方に持ったジッポで紙の端っこに炎を移す。
見る見る内に広がって行く炎。
チリチリの消えていく紙。
もう書かれた数字が見えなくなった頃、その紙の欠片を灰皿へと移す。

最後の最後、炎が消えてなくなるまで、呆然と眺める。







「ねぇ、お兄さん。どこ行くの?」

街を歩くとかけられる声。
もうアサコは慣れたしまっていた。自分がお兄さんと呼ばれる事に、そして今となっては好都合だった。

「お兄さんじゃなくて、お姉さん。」

ぶっきらぼうにそう伝えると、驚いたように固まる派手なお姉さん。
肩に置かれた手を振り払うかのように前を向き、また歩き始める。

「…待ってよっ。ごめんごめん超男前だから間違えちゃった(笑)よく言われない?イケメンだって〜」

そう間違えて声をかけて来る人の中にはこういうタイプの子が時々いるので、アサコにとっては寧ろそれが好都合だった。


その子の質問には答えず、黙って手帳を開くと、1枚ページを破りその子に手渡す。
不思議そうに紙を受け取る女の子に、無言でペンを差しだす。

「連作先教えて、気が向いたらかけるから。」

そう言うと更に驚いたような表情でジッと私を見つめる。
アサコは冷めた目でその子を上から見下ろす。

すると、震える手でペンを受け取り紙に携帯番号を書き始めるその子にアサコは心の中で笑う。

恐る恐る紙を差しだすその子から紙を受け取る。
そして優しく微笑んで言う。

「ありがと、じゃぁまた気が向いたら連絡する。」

そして、身体を翻し、また歩き始める。
歩きながらその紙を手帳にしまう。






恋は駆け引きが大切。
冷たい素振りを見せて、自分に従うやつかどうかを見定め、最後に優しく微笑む。

それだけでいい。
それだけで後はもう気が向いた時の抱き枕が一つ増える。



アサコは毎晩女と寝室を共にした。
しかも毎晩違う女と。
女の世界にいるアサコは何より女達の事をよく知っている。

だから同じ夜は二度と過ごさない。
自分の話はしない。
強引に自分の意見を通す変わりに優しく接する。
そして自分は連絡先を教えない。






家に帰ったアサコは、手帳を開く。
逆さにするとパラパラと落ちて来る、沢山の紙。
その内の一枚を拾い上げ。
携帯を手にする。


「あー、もしもし誰か分かる?」
「…(笑)そりゃそうだ(笑)この間、君が声かけてきた男みたいな女。」
「…(笑)そうそう(笑)」
「…ねぇ今から会えない?」
「無理ならいいよ。」
「晩ご飯作ってよ。」
「分かった今から迎えに行く。」


車のキーを手にして女を迎えに行く。
車に女が乗り込むと、女の話に気長に付き合い、適当に相槌を打ちながら、30分ほどかけて何でもないスーパーに立ち寄る。



2人で降りて、仲良くカートを押して買い物を済ませる。
勿論荷物は持ってやる。

そして今度は1時間近くかけて自分の家へと帰って来た。

ここまで来ると、どの女も決まって言った「座ってて、適当に使って良いなら私が作るから。」

その言葉にお礼を言いながら微笑む「でも手伝うよ。これ切って行くね。」

そして仲良くソファーに腰掛けご飯を食べる。
食べ終わるとワザとらしく呟く。
「あぁー片づけなきゃ…作るのはいいんだけど洗うのが面倒だよね(笑)」

すると決まって女はこういう「座ってていいよ、洗ってくるから。スグに終わるよ。」

適当に否定の言葉を並べながら任せる、そしてもう後一つって時に女を後ろから抱きしめる。

そして首筋にキスを落とし、呟く。
「もう、いいよ。」

そう言って自分の方に向き直させると熱いキスを落とす。

これで落ちなかった女はいなかった。



そうして熱い夜を毎日過ごす。
でもいつも女が快感に落ちていく姿を見る度思い出す。

違う。
違う。
自分は1人なんだ


自分が欲しいのは、ただ1人なのだと。
そして女に気付かれないように涙を零す。




朝になると罪悪感だけが残り、始発が出るころに女を起こす。
そして無理矢理支度をさせ、2・3個向こうの駅まで送り届ける。

「次はいつ会えるの?」そう聞く女に曖昧な笑みを浮かべ車に戻り、1人家に帰る。


家に着くと再びベッドに戻り、タバコに火をつけ、ベッドに置いたままになって居た紙を手に取り、ジッポで紙を焼き尽くす。









その日も同じように、町を歩いていると女の子から声をかけられる。

そしていつものように紙に書かせた連絡先を受け取ろうとした瞬間。

その紙は別の第三者に取り上げられる。


思わず顔を上げると。
その紙を握った人物は紛れもなくオサだった。

紙を手にしたオサを見て、アサコは心の中で呟く。

あぁ、やっぱり、違う。

オサは紙を女に突き返し、有無を言わさぬ存在感で微笑み「ごめんね」と言って女を帰らせる。


女が見えなくなった時オサはアサコに向き直り、真っ直ぐアサコを見つめる。

その瞳を見て、やっぱりアサコは思った。


ほら、やっぱり、全然違う。


全然違う。

女達が凡人なら。
この人は絶世の美女だ。

女達が美女なら。
この人は美の女神なのだ。と思う。


気まずい所をオサに見られたアサコは、視線を反らす。


すると、懐かしい甘い香りがしたかと思うと、強く強く抱きしめられた。

「寂しいなら寂しいって言ってよ!今のアサコ見てらんないっ」と叫ぶような声が頭の上から響く。


その瞬間今まで、何をしても埋められなかった心に空いた隙間が一瞬で満たされた。


納得したはずだった。
トップ就任と同時に突然忙しくなったオサ。
一緒にいるのに、一緒にいれなくなった日々。
どんどん離れていった心の距離。

その時、告げられたオサからの別れ。

アサコも確かに納得してのことだった。
お互い親友に戻ろう。
良いライバルに戻ろう。
同じ組のトップとそれを支える二番手を言う新しい関係を築いて行こう。

そう納得して受け入れた別れだった。
…でも、いざ別れて見ると。
心の距離どころか、心にポッカリ開いてしまった隙間に。
冷たい風が吹き抜け、寂しが刺す様にアサコを責め立てた。


必死にオサの変わりを捜し。
オサと描いていた夢を叶える。
イヤ…オサでは叶わなかった夢を女達で叶えた。



だが、それが余計に違うと感じさせ、その違いに気付く事で心の隙間は更に大きくなって行った。


オサの腕の中で、オサの匂いを嗅いで、オサの声を聞いてしまった瞬間。
自分でも気付かずにしまいこんでいた寂しさが崩壊して泣き崩れた。

足に力が入らず、オサに縋りつくアサコ。
「ひとりに、しないで(泣)私を…捨てないで。…私には、まさちゃんしかいないんだから(泣)」

今にも座り込みそうな程、力の抜けたアサコをしっかりと抱きとめるオサ。

「ゴメンネ?もう離さない。アサコの寂しさを消してあげられるのは私だけ。…ってちゃんと分かったから。」

片手でしっかりと抱きとめて、もう片手でアサコの頭を優しく撫でるオサ。



自分の思い通りにならなくても。
都合のいい時に会えなくても。
一緒にスーパーでカートを押しながら買い物出来なくても。
ご飯を作ってくれなくて。
一緒にご飯が作れなくても。
洗い物をしてくれなくても。
抱きたい時に抱けなくても。
自分の誘惑に簡単に乗ってくれなくても。


それでもオサが良い。
そんなオサが良い。


違う他の子と一緒なんかじゃない。
替わりなんていない。




だからね、まさちゃんも、もうこの手を離さないで。
貴女しか私を幸せにする事なんて出来ないんだから。
覚悟を決めて。

忙しくても、時間がなくても、他のまだ見ぬ誰かに、私の幸せを預けたりなんてしないで。

その手で幸せにして。
この手で幸せにするから。




       END

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