過去の拍手文

□言葉のマジック
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Side ゆうひ


オサさんの退団の話を聞いたアサコは泣き崩れた。


数時間後には本番が始まるっていうのに、こんな状態、いいはずがない。
誰だ、こんな時にトップの神経逆撫でした奴はぁ〜


なんとかしなくては、なんとかしなくては。

そう思って、私になんとか出来る方法は、オサさんに電話する事だけだった。


アサコの周りを囲む輪の中から抜け出して、コソコソと電話をかける。
オサさんに電話してるのを気付かれて。もし、オサさんが出てくれなかったら、期待した分より一層悲しむのはアサコだから。


数コール鳴らしても出てくれない電話。
もう諦めかけたその時


「はい。」

「オサさん。ご無沙汰してます。大空祐飛です。」

「あぁユウヒ。」

「お忙しい所すみません。…あのぉ〜アサコが…。」


オサさんとはそんなに親しいわけじゃない。
携帯番号は以前TCAでアサコにお互い半ば無理やり交換させられたから知っているくらい。
電話した事なんて、アサコの事での連絡事項の数回くらい。

そんなオサさんにこんな時間に突然、こんな状況で電話して、なんて話したら良いのか分からなかった。


「あぁ。
…分かった。


ちょっとアサコに替わってくれる?」


少ない言葉で全てを理解して、的確な指示をくれる頼もしい上級生。

アサコ。
アンタが好きになるのも分かるよ。



「あさこ、オサさん。」


アサコに携帯を渡すと縋り付くかのように、オサさんを呼ぶアサコ。

…そんなに大好きな上級生がいるアサコが少し羨ましくなった。


オサさんがアサコになんて言葉を送ってるかは分からない。

でも、ただオサさんの名前だけを呼ぶアサコの声と表情を見ていると…
なんとなく状況は分かる。


時折見せる驚いたような表情は…
きっとオサさんの独特の世界観の言葉に振り回されているんだろう。


「うそっ…ほ、んき?」


うーん。私にも予想外の言葉がアサコの口から飛び出す。

こんな言葉が出るって、どんな会話してるんだろう?

今回の舞台オサさんが見に来るとか?
…いやいや無理でしょ。
オサさんが退団を取り消すとか?
…いやいやそれこそ無理でしょ。


「うん…うん…
分かった頑張る。
…うん…うん、まさちゃんもね。
あはは(笑)楽しみにしてます(笑)
うん…うん…はぁーい。また。
…まさちゃんあのねっ!…ありがとうね。
…うん。うん…バイバイ…。」

少し考え込んでいるウチにどんどん会話は進んでしまったみたいで。
さっきまで号泣してたくせに、笑い声まで聞こえてくる。

ホントもうここまで行くと全く想像がつかない。
どんな話ししてるんだか。


そうこうしている内に、オサさんとアサコの電話は終了してしまったみたい。




電話直前まで、イヤ、電話している最中でさえ号泣していたアサコが、電話を切るときには目に涙はいっぱい溜めているものの幸せいっぱいな顔に変わっていた。


オサさん。
どんなマジックを使われたんですか?


アサコを囲んでいた周りのみんなも気になるようで次々に問い詰めるけど、自分の世界…と言うより、オサさんとの2人だけの世界に入り込んでしまったアサコは1人ニヤニヤ笑ってる。


突然振り返ったかと思うと

「よーちゃん、これ。ありがとう。」

だなんてご機嫌で私に携帯を突き返す。


「なにがあった?」

「ふふふっ秘密ぅ(笑)」

「こんなに皆に心配かけといてそれはないんじゃない?」

「心配してほしいなんていってないもーん(笑)」

「はぁ、せめて何言われてそんなにマジックみたいにアサコの機嫌が戻ったのかくらい教えてよ。今後の参考にするから(笑)」

「ムリ、まさちゃんにしか使えないマジックだから(笑)」

「あさこ〜」

「まさちゃんと私だけの秘密だから言わないの!
さぁ!みんな今日も頑張るよ〜(笑)」


ってな感じで、電話の真相は闇に封じられた。
まぁ機嫌直してくれたから結果オーライって事にしておきますか。


オサさんありがとうございます。
それから、ウチのトップの、そして我等が同期のアサコを末永くよろしくお願いします。



      END

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