月の祈り人
□第10話
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港町ヴェスタテルカ──。
リーガル地方最大の都市にして、流通の要とも言える場所。
故に、通りを歩く人の多さも今まで立ち寄った街や村とは比べ物にならない。
リラは、街の入口でポカンと口を開けて立ち尽くしていた。
「すごい……ですね」
「人が多くて鬱陶しいだけですよ。唯一の救いは、海を臨む景色が綺麗なことですかね」
感嘆のため息をもらすリラとは対照的に、カスティアはうんざりとした様子で首を振った。自然溢れる光景を愛する吟遊詩人は、溢れかえる人々と人工物はお気に召さないらしい。
「賑やかでええやん」
「そうですね。いつも頭がお祭り状態のあなたならそうでしょうけど、私は繊細なんです」
「祭りかー。楽しそうやなー」
嫌みにすら気付かず、シキはへらへらと笑う。その様子に頭痛は増すばかりで、カスティアは額を押さえてため息をついた。
そのまま、チラリとリラに視線を向ける。
目をキラキラさせながら辺りを見回している姿にホッとする。
変な二人組を撃退(?)してから、どことなく様子がおかしかった。今までのようにあからさまに落ち込むのではなく、それを隠して無理に笑っているように感じられたのだ。
今はその様子が見られないが実際はどうなのか。杞憂であって欲しいものだが、こういう嫌な予感ほどよく当たるものだ。
「これからどうするんですか?」
くるりと振り返った銀の瞳がカスティアを捉える。一瞬言葉に詰まり、慌てて答えた。
「……確か、街の東の外れに図書館があったはずです。そこに行きましょう」
「東やな!ほなこっちか!」
そう言ってシキが足を向けたのは、半ば予想していた通り西で。
リラが慌てて引き止めた。
「違いますー!逆です!ま、まさか東西も逆になるとか教えられたんじゃ……」
「なんや。リラは千里眼の持ち主なんか?ようわかったな」
「…………もう、呆れるの通り越して可哀想になってきました」
シキの袖を掴む手を離して、リラはそっと目頭を押さえた。
カスティアは、同情こそしないものの、ここまでよく騙されるものだと感心していた。
そして──そんな三人を物陰から窺う影が三つ。
未だ動く気配は見せないが、その眼差しは鋭いものであった。
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