月の祈り人

□第5話
1ページ/4ページ

 明くる日、三人は港町に向かう街道を歩いていた。
 一人ペラペラと喋りまくるシキを、カスティアは気持ちいいほどに無視をして、リラに話しかけていた。
 二人の間を歩くリラは、ひきつった笑みを浮かべている。
 こっそりとため息をついた。

 ──僕、選択間違えたかな……。

 ほんのちょっぴり、そんな考えが頭をよぎる。
 でも、一人では何かと不安だし、二人とも悪い人ではない。……多少、変わってはいるが。

「なあ、そろそろ昼飯にせえへんか〜?」

 ぐう、と鳴るお腹を押さえてシキが言った。
 キョロキョロと辺りを見回したカスティアが頷く。

「そうですね。ちょうどいい木陰もありますし、ここでお昼にしましょうか」

「よっしゃー!」

 我先にと駆け出したシキが、途中でべしゃっと転び、駆け寄ったリラが引っ張り起こしている。
 呆れたようなため息をつきながら、カスティアは二人を追って歩き出した。
 カスティアが木陰に着いた時には、すでにシキが携帯食料を頬張っていた。

「腹減ってる時は何でもうまいもんやなあ」

「そうですか。それは何よりですね」

 気のない返事をしながら、カスティアはテキパキとお茶の準備を始める。
 どこからともなく取り出された一人分のティーカップとティーポットに、シキとリラが目をみはった。

「ど、どこにそんなものが……」

 にっこりとカスティアが微笑む。

「乙女の秘密です」

「自分、乙女やないやん……」

 ヒクリと口元をひきつらせたシキが力無くツッコむも、当の本人は涼しい顔だ。

「カスティアさんって謎だらけですね」

 よくよく考えれば年齢も分からない。二十歳くらいにも見えるが、落ち着いた雰囲気は随分と年上にも感じられる。
 思い切って聞いてみようとリラが顔を上げた時、カスティアとシキを取り巻く空気が変わった。
 カスティアがカチャリとティーカップを置いた。

「魔物やないな」

「ええ。盗賊でしょう」

 盗賊、という単語にリラの顔が青ざめる。
 だが、カスティアたちは表情こそ真剣だが、落ち着いたものだ。
 そして──ザッと草を踏む音がして、十数人の男たちが素早く三人を取り囲んだ。

.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ