月の祈り人

□第8話
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 長い話になりそうだったので、三人は場所を移動した。近くの食堂に入り、注文を済ませる。
 昼食の時間を過ぎていたこともあって、客は彼らの他には二人だけだ。静まり返った場の中で、会話の口火を切ったのは少女だった。

「まだ自己紹介してなかったね。私、リディア。リラの双子の妹よ」

「双子の……妹」

 半ば予想していたこととはいえ、すぐには受け入れられない。リラはまじまじと少女──リディアを見ながら呟いた。

「本当に……?」

「こんなそっくりなんや。間違いないやろ」

「そう……ですよね」

 あっさりと言われて、リラは俯いた。
 あんなに欲しかった自分の手がかり。
 だが、いざ目の前にすると少し怖かった。

「リラ、記憶喪失ってどういうこと?」

「どういうことって言われても、僕にも分からないよ。気が付いたら名前しか思い出せなかったんだ」

 少女の問いにリラはかぶりを振った。
 そこへ注文していた料理が届く。空腹だった二人は、料理を口に運びながら順番にこれまでのことをリディアに語った。

「──そう、だったの」

 大変だったのね、とリディアは呟いた。
 シキに視線を向けると、いつの間にかすやすやとテーブルに突っ伏して眠っている。

「でも、もう安心よ。私と一緒に帰りましょう」

「……そう、だね」

 頷きながらもリラの表情は晴れない。
 嬉しいはずなのに、何故だろう。心の奥で何かが警鐘を鳴らす。

「僕、ちょっとトイレ」

 ガタンと席を立ち、リラはそそくさと店の奥へと消えた。
 リディアは小さくため息をつくと、背もたれに寄りかかり、もう一度シキを見た。ぐっすりと眠っていることを確認して、懐に忍ばせていた小瓶を手にする。
 声に出さずに笑いながら、そうっとリラのコップへと小瓶の中身を注ごうとした。
 その寸前。

「やめとき」

「っ!」

 横手からかかった声に、リディアはビクリと動きを止めた。どっと冷や汗が噴き出す。
 おそるおそる声の方向を見ると、アイスブルーの瞳が射抜くようにリディアを見ていた。

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