月の祈り人
□第8話
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「……え?」
突然名前を呼ばれ、リラは驚いて動きを止めた。振り返った途端、目の前に金色が広がった。
ふわりとなびいた髪だと気付いたのはその一瞬後で、その直後、リラは抱きついてきたのが自分と同年代の少女だと分かって慌てふためいた。
「え……えぇっ!?」
「何や。リラまでお相手おるんかー?」
「ち、ちちち違いますよ!」
シキのからかいの言葉に、リラはぶんぶんとかぶりを振った。
すると、リラの腕の中の少女が顔を上げた。目が合った瞬間、リラは思わず身を引いた。
「なっ……!」
「ほう……不思議なこともあるもんやなあ」
絶句したリラとは対照的に、シキは面白そうに呟いた。しげしげと少女を見つめる。
年の頃は十五・六。高い位置で二つに結われた金の髪。少しキツめの銀の瞳は今は不安に揺れているが、きっと普段は強い輝きを宿しているのだろう。
だが、何より特徴的なのは──。
「……僕?」
そう。その少女が、リラとそっくりだということだった。
呆然と自分を見つめるリラを、少女は首を傾げて見つめ返した。
「リラ? どうしたの?」
「どうしたって……その……」
言い淀んで、リラは俯いた。何と言ったらいいのだろうか。
見かねたシキが口をはさむ。
「お嬢ちゃん誰や?」
「あなたこそ誰よ」
少女がリラを庇うようにしてシキを睨む。
「喋り方変だし怪しいわ。まさか、リラを狙った人さらい!?」
「誰が人さらいや!」
素早いツッコミに少女が一瞬怯む。
「わいはシキ。旅の薬師で、今はリラの同行者や」
「リラの……?」
確かめるように視線を送る少女に、リラは頷いた。
ようやく警戒を解いた少女が小さく息を吐く。
「あの……」
おずおずとリラは口を開いた。意を決して問いかけた。
「君は……誰?」
「リラ? 何言ってるの?」
少女が唖然としながらも問い返す。押し黙ってしまったリラに代わって、シキが再び口を開いた。
「リラは、記憶喪失みたいなんや」
そう告げられて、少女は完全に言葉を失った。
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