月の祈り人
□第8話
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あれから──何とかシキをなだめすかし、海岸沿いの道を少し行ったところで日が暮れた。
予定外の野宿に今度はカスティアがぼやき始め、リラは心の安まる時がなかった。
翌日、昼を少し過ぎた頃に、ようやく港町との中間にある村にたどり着いたのだった。
小さいながらも、旅人が多く立ち寄るのだろう。思いの外活気のある村だった。
「まずは昼飯やな!」
うきうきとシキが提案する。もうすぐ村だからと昼食を取っていなかったから、カスティアたちも素直に同意した。
「食堂なら確かこちらです」
以前この村に立ち寄ったことがあるというカスティアが、先頭に立って歩き出した。
一歩踏み出したまさにその時。
「カスティアさんっ!?」
近くの店から出てきた男性が、歓喜の声をあげた。
足を止めたカスティアは、振り返って瞬いた。何となく見覚えがある気はするが、名前が思い出せない。
「お久しぶりです! トマスです。また来てくれたんですね」
キラキラと顔を輝かせる男性に、カスティアは即座に営業スマイルを向けた。
名前を聞いて思い出した。この村の村長の息子だ。
「ええ。お久しぶりですね」
「もうお会いできないんじゃないかと思ってたので嬉しいです。あ、良かったらご一緒に食事なんていかがですか?」
「よろしいんですか?」
「はい! 以前、我が家のシェフの味を気に入っておいでのようでしたし、すぐに用意させます」
「まあ、嬉しいですね」
ニッコリと微笑みながら、背中に回した手でシキたちを追い払う仕草をした。
素直に従った二人は、こそこそと会話を交わす。
「どういうことでしょう? あの人カスティアさんが男の人だって知らないのかな……」
「そうやろなぁ。カスティアのことやから、性別のことには触れないで、さんざん貢がせとるんやろ」
「……それ、詐欺って言いません?」
「せやなぁ。ま、カスティアならうまくやるやろ。バレたとしても『私は女だとは一言も言ってません。あなたが勝手に勘違いされたんでしょう』とか言って逃げるんちゃうか」
「あはは……」
その姿が簡単に思い浮かんで、リラは乾いた笑いをもらした。
「わいらは邪魔みたいやし、とりあえず別行動っちゅーことで。さ、適当にメシ屋探すでー」
「あ、はい!」
スタスタと歩き出したシキを小走りで追いかける。
「リラ……!?」
知らない声がリラの名を呼んだのはそんな時だった。
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