月の祈り人
□第2話
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普通に行けば夜までに町に着くはずだった。
それが何故こうして野宿をしているのか。
すべてはシキのせいだった。
やれ珍しい薬草が生えていただの、変わった鳥がいただのと道を外れるのだ。
勝手に一人で行ってくれれば問題ないが、奴はその度にカスティアまで巻き込んだ。
「やっぱり見捨てておくべきでしたね……」
後悔してももう遅い。
現にシキは今も目の前にいるのだから。
「そういえばカ…カステ…いや、カスティアは何しとるん?」
まだ名前をスムーズに呼べないのかと半ば呆れつつ、カスティアは投げやりに答える。
無視はしない。
既に試して懲りた。さらに鬱陶しさが増すだけだ。
「吟遊詩人、と言えばいいですかね」
「おお! ほな歌上手いんか!」
「……ええ。まあ」
キラキラと輝き出したシキのアイスブルーの瞳に、カスティアは嫌な予感を覚えた。
「聞かせ」
「お断りします」
皆まで言わせず、バッサリと切り捨てる。
「あなたに聞かせるほど私の歌は安くありませんから」
ツンと横を向くと、耳をふさぐ。
かすかに聞こえるシキの不満の声を聞き流して、空を見上げた。
木々の間からのぞく星空に心の安らぎを求める。
「……?」
ふと何か違和感を感じた。星とは違う光が──落ちてくる。
しかも、近い。
「な、何や?」
いきなり立ち上がったカスティアにシキが驚く。
光はまっすぐにこちらへ向かい、
ガサッ、ガサササッ
森の木々に突っ込んでいった。
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