過去拍手
□過去拍手Y
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「一個確保〜…。」
親指と人差し指を交差させて、遥か上空を飛んでいく鉛の塊を捉える。
水彩の水色を溶かした青い空が、一切雲を伴っていないから、それはぽっかり浮かんでいた。
「あんた、大学生にもなって何幼稚なことやってんのよ。」
「花…そんな怖い顔しないでよね…。」
横でいきなり立ち止まって先のことをして、依然ぼーっと空を見上げる友人に、花が、大人っぽく巻かせた黒髪を掻き揚げながら言う。
花は子供が嫌いだ。
そして、大人で格好いい付き合いをする。
それをしっかりわかっている私は苦笑混じりに返した。
風が髪を擽って弄ぶ。
「おまじないなの、これ。飛行機をね?千機、今みたいに捕まえられたら、無事に帰ってこられると思って…」
その背中を見ていた花は、自分がつついてはいけない部分をつついた事に気付いた。
空を見上げながら、同じく空を見上げているだろう、思い人を偲んでいる。
そんな一途な友人に…花は思いっきり抱きついた。
「あいつもきっと!あんたに会えるの楽しみにしてるよ!そりゃ連絡は殆どとれないけど絶対あんたのこと思ってるからさ!」
団栗眼になっていたのも束の間、彼女は屈託のない心からの笑みを花に見せ、殊勝に頷いた。
「ありがとう、花!喫茶店でも行こ!奢るね」
「そんなのいいわよ?あんた、この前金欠だって」
「何よ。この前、京子とお茶したくせに、私とじゃ駄目って事?」
花が「言ってたじゃない」の言葉を飲んだのは、頬を膨らませんばかりの強い口調だが、彼女の顔は笑顔のままだったからである。
花は考えるポーズをとった。
左手にはまる指輪が煌めく。
「そういう訳じゃないわよ…わかったわかった。」
「決まりね。私エスプレッソ。」
「あーもう、本当にあいつのせいでイタリア付いちゃってるわね。」
こんな時、花は思う。
イタリアに留学したクラスメートを。
そして、思っては1年以上連絡を僅かにしか寄越さない奴に怒りを彷彿させる。
今、意気揚々としている友人の"飛行機のおまじない"でかかった飛行機は九百を超えた。
もうすぐ、余りに離れた遠距離恋愛も終わる。
「駄目?あっちでイタリアに慣れちゃってたら日本に帰ってきて、私が合わせなきゃ。でしょ。」
「こんな子、置いといて何してんだか…」
「何か言ったぁ?花、風強くて聞こえにくい…っ」
「何でもないわ。ほら…行くよ!」
花の呟きは友人の耳まで届かなかったけれど、軽くごまかして先を急かした。
「……早く、会いたいな… くん…」
どうか、もう一度お互い笑うまで無事で居て、と見えない君を青空に重ねて願う。
毎日毎日思い出しては
空を見上げる
未だ姿の見えない貴方の姿を
青に重ねて見るの
無事に戻ってくれるように
〜青空の振り向かせかた〜