過去拍手

□過去拍手T
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暗闇の部屋の中。

扉から僅かばかりに漏れる光で貴方が帰ってきたのが分かった。


「また殺したの?」


人を傷付けるのを何時もは躊躇う君なのに。

夜になれば漂ってくる鉄の匂い。


「ハハッ、しょうがねぇって」


笑みを浮かべているけど、それは相手を嘲笑う意味のもの。


「…ここ、血がついてる」


頬に少しだけの血がついていた。

それを拭い去ろうとして手を伸ばしても、ちょっと、という所で指先が届かない。


「悪い悪い」


今度は私だけに見せてくれる優しい笑みを浮かべ自分から近付いて私の手を握った。


「別にいいよ。これは私が武のモノっていう証明だもの」


横目で見るのはベットの方。

そこにあるものが原因で私の行動範囲は決められているけど、いいの。

さっきよりも手の届く範囲に来てくれたため血を拭い取る。


「ありがとな、姫」


優しく私の手首を取り口付けをし、跡を残す。


「ずるい…」

「何がだ?」


手首を始めとし、いろんな所に跡を付けていく武を見て思わず口をついて出てしまった。


「武にも付けたい」


抱き着こうとしても何かに引っ張られる感覚。

それは、私の両手足と首に付けられている鎖。

私が武のモノだということの証。


「……いいぜ、俺にも付けてくれよ」

「うん」


嬉しそうに言う武の目は虚ろで濁っていて……。

素直に従う私も同じ目をしていると思う。


「ほら」


差し出された手首を取って私に付けられたのと同じ所に跡を付ける。

そして二人して噛み付いて血を飲み合う。

これは私と武の……二人だけの儀式みたいなもの。


「姫…」

「武…」


ベットで抱きしめ抱きしめられながら二人で寝る。

心音と鎖の音が混ざって心地よく感じ聞こえる。


「「愛してる」」


互いに互いの血に塗れながら穏やかに眠りについた。




明日も…この先、生きている限り、永久に続く戯れ。








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