村人は,再び現れた旅人の兄弟を煩わしそうに見つめてきました。
ですが,兄は気にせずに手に持っていた石を見せていいました。
「煮るとスープが出来る不思議な石を持っているのです。
鍋と水だけでいいので貸していただけませんか?」
興味を持った村人は,兄弟を家に招き入れ鍋と水を与えました。
兄は石を煮始めると,村人にこう言いました。
「この石は古くなっているので,濃いスープになりません。
塩を加えるとより美味しくできるのですが」
村人は直ぐに塩を持ってきました。
兄は同じような言葉で,村人から小麦・野菜・肉を求めました。
そのたびに村人は兄に,言われたものを持ってきました。
こうして出来上がったスープは,素晴らしい味となりました。
何も気づかなかった村人は,出来上がったスープにとても感激しました。
スープを食べ終わった兄弟は帰り際に石を村人に渡し,村を後にしました。
「おもしろいな,どうして兄さんの言葉を信じてしまったんだろう」
「僕もこんなに簡単にいくとは思わなかったよ」
「次からこの魔法を使えば,食べ物が食べられるね」
弟の言葉に,残念そうに兄は首をふりました。
「それは分からない」
「どうして?」
「あの村人は僕の言葉を疑っていた。だからどうなるか知ろうとしたから,騙せたんだ。
もしも,僕の言葉を信じていたりしたら「どうしてそれが必要なんだ?」と疑問を持たれてしまう。
根っから疑う人なら,門前払いに合うだけさ」
「ふーん,難しいな」
「まあ,騙せる人もいれば騙せない人もいる。時の運さ」
そして,二人の兄弟は旅を再開しました。
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