文


□ 夢で逢えても
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夢を見た


長い階段の先には大きな扉が開いていて、そこで愛しい猫が私をじっと見ている。私は必死になって階段を駈け上がる。




立ち止まってはいけない

頭の隅で誰かが警告している。



階段が後ろから一段一段抜け落ちていくのを感じる。階段の下には赤色の海が広がっているため、振り向く余裕はない。振り向いたら階段と一緒に底無しの海に落ちてしまう。





息切れが激しい
上手く呼吸ができない
助けて
チェシャ猫
喉が熱い
苦しい
辛いよ
チェシャ猫
チェシャ猫





足が急に重くなり、躓く。
その一瞬の間に、落ちていく階段が私に追いつく。階段と一緒になって私も落ちる。



「チェシャ猫!」




手を伸ばしたが、いつだって助けてくれた彼の姿は既になく、大きな扉は閉ざされていた。


そのまま底無しの海の中へ。









真夜中の目覚めは最悪だった。

起き上がると背中は汗でびっしょりと濡れ、顔は涙でぐしょぐしょになっていた。



再び会うことは一生叶わないことなのに、彼はまだ夢に出てくることをやめてくれない。そればかりか、夢の中でも触れさせてくれないし、会話さえしてくれない。この際話せなくてもいい、せめて声を聞かせてほしい。会いたい、会いたい、会いたい。会ってぎゅっと抱きつきたい。ケモノの匂いに埋もれて、痛いくらいに抱き締めて、そうしたら今度は絶対に離さないのに。



ふと窓を見れば、夜空で三日月がにんまりと笑っていた。

「…ばか。」

三日月に向かって文句を言ったら、少しだけすっきりした。









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2010/01/22

1/6〜22拍手文。猫を連れて以外のENDのその後。動画の一部に使う予定。

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