文


□ 手帳
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三人で初詣に行こうという母親の誘いを、亜莉子は控えめながらもはっきりと断った。普段自分の意見を言わない娘が珍しく意思表示をしたので、母親はそれ以上は誘わなかった。


亜莉子ちゃんは、友達と行くのかな?


断った本人でさえ、原因が母親の恋人が何気なく放ったその一言である事に気が付かなかった。











終業式の日、クラスメートはクリスマスやカウントダウンに初詣、夏季に比べれば少し短いながら、イベントが沢山詰まった冬の休暇の予定を決めていた。

教室を見れば、それぞれのグループが輪になり、みんなスケジュール帳を広げて一生懸命予定を書き込んでいる。





「全部埋まっちゃった!」

亜莉子は教室の光景を見てぼんやりとしていた為、自分が話し掛けられていると気付くのに数秒かかった。

「あ、あぁ、凄いね!」

顔を上げると前の席の女の子が空白のないスケジュール帳を広げて見せていた。

「もうこのクラスともお別れだから、いっぱい思い出作らないきゃって思って!」

それにしても入れすぎちゃったと笑って舌を出す。

亜莉子が口を開こうとすると、教室の輪の中の一つがこちらに向かって叫んできた。


「美穂もう帰るの〜?」

「うん、今日は予備校あるから!」

目の前の女の子が答える。


「そっか!じゃあ、また明日ね〜!」

「また明日〜!」

自分のグループと会話していた女の子が亜莉子の方に向き直す。

「それじゃあね、葛木さん、良いお年を!」

「うん、良いお年を。」



お互い笑顔で手を振る。




また明日と良いお年を。
女の子が無意識に使い分けた、その挨拶の違いが亜莉子には悲しかった。












もう数十分で年が明ける。退屈に耐えられず亜莉子はテレビを付けたが、どの番組も年越し独特の浮かれた雰囲気で、それは逆に彼女の気持ちを暗くさせた。



「あーあ。やっぱり私も、行けば良かった!」


誰もいない部屋でわざと明るく言ってみるが、虚しく響いただけで気分は晴れない。







もう寝てしまおうかという考えがよぎったその時、インターホンが鳴った。






 
 
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