文


□ 猫を連れて
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ふいに、アリスは僕の左手を最近あまり食事をとらなくなったせいで痛々しい程細くなった両手で掴み、そのまま口に含み指を舐め始めた。

美味しそうに僕の指を舐めるアリスが可愛らしくて、空いている右手で髪を梳いてやると、彼女のいい匂いがそこら中に充満した。少し梳いただけでごっそりとアリスの髪が抜けたが、彼女は気付かなかったようなので僕も見なかったことにした。


「チェシャ猫は、本当に美味しいのね」

そう言ってアリスが抱きついてきたために、ベッドがギシギシと軋んだ。


「猫は美味しいと決まっているからね」


頭を撫でてやると、目を細めて喜ぶアリスがどうしようもなく愛おしくて、思わず彼女に口付ける。接吻が深くなると、時折アリスの口から甘い溜息が漏れるようになり、その恍惚とした表情に僕は自制がきかなくなる。


アリス
僕のアリス
愛しくて可愛いアリス
僕だけのアリス!
ねぇ、シロウサギ
羨ましいだろう
全てが終わった後も僕の隣に居ることを望んだんだよ
アリスは僕が好きなんだ
僕もアリスが大好きだよアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスア「亜莉子、」




ドアの向こうから放たれた声に、僕の思考は停止する。アリスが目を見開いて僕のローブを強く握り締める。



「亜莉子、起きてるんだろう?」

「調子はどうだ、今日は学校行けそうか?」

「…鍵、開けてくれないか?」



毎日この時間に現れるオジサンからの呼びかけに、今日もアリスは軽くパニックを起こして震え、首を左右に振って泣き出してしまう。




「チェシャ猫ぉ…」

「アリスを泣かせるオジサンは良くないね。」



大丈夫だよ、と言って両手で耳を塞いでいる彼女の細い体をギュッと抱き締める。さっきの続きをしてやると、やがてアリスの呼吸が乱れてきた頃、オジサンが階段を下がっていく音が聞こえた。その音がどこか悲しげだったけれど、そんな事は僕にとってはどうでもいい事だった。











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2009/12/28
猫を連れてのBadend風

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