□明日、君はもう居ない
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[明日、君はもう居ない【後編】(アカカイ)]

どさりと腰を下ろして、グラスにビールを注ぐ。

「カイジさんは缶のままがいいんでしょ」

はい、と手渡すと何故か一回キスをされた。


「もうこうやって二人でビールも呑めないね」

「そうだな…」

腰を上げて冷蔵庫から早くも二本目のビールを取り出そうとしているのを見て、思わず声が出た。

「え、カイジさんもう無くなったの?」

「うん、最後のビールだし。」

「じゃあこれ飲む?」

「え、いいよ、新しいの開けるって」

「いいから。
飲ませてあげる」


俺は無視してビールを口に含んだ。


「んっ、」

指でカイジさんの唇を優しく開けて、温くなったビールを口内から口内へと流し込む。

「ん、ん」

手にしていた新しいビールがゴトリと落ち、ゴロゴロと床へ転がっていった。
唇の端から伝うビールが服を濡らしていく。

僅かに溢しながらも、カイジさんは素直に音を立てて飲み込んでいった。

「…美味しい?」

やがて全て流し終えると、居場所を探すその舌を捕まえた。
逃げようとする舌を何度も吸い上げる。
頬の内側、下唇、至る所を舌でなぞりあげる度、びくっと反応する様が面白い。

「アカ、ギ…」

トロンとしている瞳を向けて、俺の服の後ろをギュッと掴んだ。

くちゅ、くちゅ、とわざと音を立てて何度も濃密なキスをする。

「カイジさん。
…当たってるんだけど」

「し、仕方ねぇだろっ!!」

「キスしただけなんだけど…?」

意地悪な笑みを浮かべズボンの上から撫で付けてやると、カイジさんは身体をびくっと震わせた。

「何、どうしたの…」

「どうも、しねぇよっ…!」

「へぇ、そう」

自然な手つきで上着を脱がしにかかる。
二人共体が熱い。
酒のせいなのか、はたまた違う理由なのかは解らない。

胸元に唇を寄せながら今度はズボンも脱がしに掛かる。

「ちょ、俺だけ全裸になんの!?」

「…え」

思えばいつも、俺は服を着たままだ。

「…じゃあ俺のも脱がしてくれる?」

「えっ…!」

少し迷って、カイジさんは俺の服に手をかけた。

「今日のアカギ、なんか違うな」

「そう…?」

互いの服を脱がし合い、俺達は体と体を寄せ合った。

肌と肌が触れて心地良い。

「カイジさん、目、閉じてて」

そっと手のひらで目を隠してやると、素直に目を閉じた。

耳元を軽くカリ、と噛む。


ひ…!」

そして優しく唇に含みながら、耳の中を犯していく。
くちゅ、くちゅ、とわざと音を立てながら耳を舐めると、カイジさんが堪らず目を少し開けた。

「ァカ…ギっ…」

「…駄目だって言ったじゃない」

瞼にキスをして、また目を閉じさせる。

耳を舐めただけでもう既に反り上がってしまっているカイジさんのモノに視線を落とす。
先走りが先端を濡らし、いやらしくぬめついていた。

…まだ、触らない。

次にへその横に唇を這わせる。

「んっ…!」

舌を目一杯出して大きく舐め上げてやると、喉奥から声を漏らした。

「…ここ、気持ちいいの?」

ゆっくりとへそに舌を侵入させると、バッと手で妨害されてしまった。

「そんなとこ、ダメ、だっ…て…!」

「どうして?」

「き、汚いからっ…!!」

「カイジさんは汚い所なんか無いよ」

「とにかく、ダメ…!」

「ふぅん。じゃあこっちは?」

脇腹から脇の下にかけて舐め上げる。

「ぅあっ…!!」

普段舐められ慣れない所ばかり責められて声が上擦ってばかり。

「そこもっ!ダメっ…!」

いやいやと脇腹を押さえる様を見てため息を洩らす。

「…ワガママだな。
解ったよ、ここがいいんでしょ」

ちゅ、と乳首にキスを落とした。

「ぅ、そういう意味じゃ…!」

「違うの?
じゃあ、こっちかな」

乳首を口に含んで舌で転がしながら、今度は下の穴に手を伸ばす。

「…………!」

カイジさんは何も言わないで目をギュッと瞑ったまま。

「何も言わないって事は、入れて欲しいって事だ」

耳元で意地悪く囁いてやると、また首を横に振った。

「ち、違…!」

カイジさんの返答を待たず、俺はぐっと指を進めていく。

「だっ…め…!」

「何?」

もう一本指を追加する。

「んぁっ…!!
…ア…カギ、駄目だって…!」

「駄目じゃないでしょ?
こんなにしてさ…」

ピクピクと痙攣している性器。

何時も思うのだが、本当にカイジさんって感じやすい。

ここにきて初めて性器に触れてやった。

「あっ、あっ!!」

穴の中でくちゅくちゅと指を動かしながら、左手では性器を扱く。
扱く度にどんどん溢れてくる先走り。

「…カイジさん、やらしいね」

「んな事ねぇっ…!!」

十二分に指で慣らし、穴に性器をあてがった。

「欲しい?」

「…………」


…素直じゃないな」

ぐっと腰を押し進める。
じゅぷ、と先の方から段々と飲み込まれていく。

「あぁっ…!」

「ほら、欲しかったんじゃない。
そんな声出しちゃってさ」

ゆっくりと奥まで挿し、そのままギュッと抱き締めた。

普段お互い全裸になる事が少なかったので、触れ合う肌と肌が新鮮だ。



……本当に、病気、なのだろうか。

少し痩せはしたものの、以前のカイジさんと至って何も変わらない。

温かい体をそっと撫でる。

「どうした、アカギ?」

いきなり行為を中断した俺を、不思議そうに覗き込む。

「なんでもない。」


肌も、この瞳も、この指も、この性器も。
全部全部俺のもの。

死神なんかにゃやらねぇよ。


またゆっくりと腰を進める。

「ん、あ」

「カイジさん、綺麗…!」

汗でぴたりと肌に張り付いた髪の毛が艶かしい。
頬は朱色に染まり、薄く涙の膜を張った瞳が俺を見つめる。

腰が速くなっていく。

「あ…!」


腰を動かしながら、俺はカイジさんとの事ばかり思い出していた。
情けない程に、俺の中にはカイジさんとの思い出しか無い。


だって要らなかったんだ。

カイジさんの他には、何も。



きっとこれが最後のエッチ。

滲んだ涙を隠そうと俺はカイジさんに覆い被さった。

カイジさんの体温。

今、確かにここに居るのに。

明日、君はもう居ないんだろう。


「アカギ…?」


それ以上何も言って欲しくなくて、俺は無理矢理唇を塞いだ。
ちゅ、ちゅ、と何度もキスを繰り返すとカイジさんは目を細めた。

ギュッとハグをされ、後ろ頭を撫でられる。

「ごめんな…」

悪くないのに何故か謝るカイジさんに胸がきつくなった。

悲しくなって、首を横に振りながら首筋に顔を埋める。


こんなに愛しいのに。
こんなに大好きなのに。

神様は何故カイジさんを選んだ?


「……冷たいって」

俺の涙がカイジさんのうなじを濡らしていく。

「気持ち良く、させてよ」

いたたまれなくなったのか、カイジさんが下から腰を動かしてきた。

「ッ、ごめん」

涙をグイと拭ってまた腰を動かし始める。

「俺、いっつもしてもらってばっかりだったから…!」

右手が伸びてきて、乳首を弄られた。

左手では先程の仕返しなのか指先で耳を愛撫されている。

「んっ…!」

ざわざわとした感覚
に、嫌でも体が反応してしまう。

「そんな積極的にされたら…ヤバイって」

「いいよ、沢山気持ち良くしてよ」

普段こんな事、絶対言わないのに。

なんだか堪らなく興奮してきてしまって、自然と腰の動きが速まった。

「やば、い…!気持ちっ…い…!」

穴の中で、カイジさんの好きな場所を執拗に擦ってやる。

擦る度にどんどん先走りを吐き出していくカイジさんの性器。

それを絡め取って更に激しく扱く。

「あっ!んっ、」

じゅぷじゅぷと音が響くも、最早それが何処から響いているのかすら解らない。

とにかく気持ち良い。

右足を持ち上げて更に奥まで突き上げる。

「あぁっ!ぅ、あっ…!!」


「そろそろ…ヤバいかも」

「アカギ、俺も、やばいっ…!!」


最後のエッチがもうすぐ終わる。

でも止めたく無い。

でも、でも…



最後には二人とも泣いていた。

こんなにも愛しくて悲しい行為が何処に在る?


悲しくたって快感の波はすぐそこまで押し寄せて来てて、俺は涙を拭いながら夢中で腰を打ち付けた。

「っ、やばい!
あっ、あっ!!」

カイジさんの精子が自身の腹や俺に飛び散って、肌色を汚していく。

その様が凄くいやらしくて、俺も限界を感じた。

「………ッ!!」

最奥に一度強く打ち付け、カイジさんの中に思い切り熱を放った。


はぁ、はぁ、と互いの荒い呼吸だけが部屋に響く。


ゆっくりと性器を引き抜き、カイジさんの横にどさりと倒れ込んだ。

「カイジさん、拭いてあげる」

近くにあったタオルで、精子でべとついた体を拭ってやる。

そのまま手を握り合って目を閉じた。


…どれ位経っただろうか。


「……アカギ、寝ちゃった?」

「いや。なに?」

「…………」

「……?」

「……俺の事、忘れないでくれよな」

「………変な事、言わないでよ…!」


悲しくて悲しくて、声を殺して静かに泣いた。





「…朝?」

手は、繋いだまま。

なかなか起き出さないカイジさんに少し不安を覚える。

だが俺の心配をよそに、暫くしてぱちりと目を開いた。

「おはようカイジさん」

「ん…!」

「どうしたの?」

「…眠い」



……医師の言葉を思い出し、血の気が引いた。


”最後には眠る様に死ぬ事が出来ます”


「眠いの…?
カイジさん」

「うん、なんだか凄く眠い…」

「そう…」


手をぎゅっと握り返した。


「アカギ」

「ん?」


目を閉じながら笑い、少し口を開いて声にならない何かを呟いた。


「なぁに、カイジさん」

口元に耳を寄せる。

「ねぇ…」


「…カイジさん?」


その後、二度とカイジさんの瞳と唇が開かれる事は無かった。


「……カイジさん…」


まだ少し温かい体を強く抱き締める。


「……おやすみ…!」


顔をぎゅぅっと押し付けて、静かに静かに泣き続けた。





慌ただしかった葬式も何もかも全て終わって、俺は急に孤独を感じていた。


この部屋は辛すぎる。
思い出で溢れていて、今にも気が狂いそうだ。


カイジさんが最後に着ていた服は、何故だか形見の様な気がして未だに洗濯が出来ない。

まだ昼間だというのに何もやる気が起きず、遺していったTシャツもズボンも全て抱き締めて布団に入る。

涙ぐみながら少し強く抱き締めると、かさりと紙が擦れる音がした。

えっ…!

ズボンの後ろポケットから何か茶色いものがはみ出している。

それは小さな封筒。

汚い字でアカギへ、と書かれている。


「……!!」


急いで中を確認した。


『手紙なんて初めて書くからなんだか恥ずかしい、でも最後だから書く。

アカギ、久しぶり。

この手紙を書いている今、俺は間違いなく生きている。
けどお前がこれを読んでいる今、俺は間違いなく死んでいる。
酷く不思議な気分だよ。

アカギ、今お前泣いているんだろう?

笑ってくれよ。
それが一番嬉しい。

いつかまた誰かと出会って恋をして…そんな幸せがお前に訪れる事を、切に願う。

愛してた、いや、愛してるよ。

またいつか、何処かで。』



手紙はそこで終わっていた。




………馬鹿か。


「カイジさん以上に愛せる人なんて、見つかりっこ無いだろう…!」


グイと涙を拭う。


でも、何故だか不思議と寂しさが消えた。


”またいつか、何処かで。”


カイジさんの声が頭に響く。

アンタの最期の笑顔の意味、今なら解る気がするよ。


窓から差し込む光に目を細め、皮肉な程に晴れた空を見上げた。

右にはもうカイジさんがいない。


それでも俺はあなたの居ない世界を生きていく。

いつかまた会った時、誇れる俺で在る様に。
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