物語

□夜明けを待つ壊れた人形
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―…レフ

―…ェ…レ…

―…エ…レフ…






「ミーシャ!!」


懐かしき声に意識を覚醒させる。でも、そこに《彼女》はいない。


「ドゥシタ。」


そう、私のそばにいるのは、妹ではなく冥府の王。
深い闇に包まれた世界、ここは冥府。
そこで私は、冥王に抱きしめられ眠っていたが、さっきの夢に余儀なく覚醒を促された。


「…なんでもないよ。」
「θニ嘘ハ通ジナィ。夢見ガ悪カッタノダロゥ?」


漆黒に染まってしまった私の髪を撫でながら、冥王は柔らかい笑みを浮かべる。
普段なら、そんな彼の優しさがとても嬉しい。
なのに、何故か今日は素直に喜べない。

夢のせい?


「余計ナコトハ、何モ考ェナィデ良ィ。ダカラ、モゥ少シ、オヤスミ。」


心地良く響く冥王の声。

それに誘われるように、そっと瞼を閉じる。



よく、冥王は私にミーシャのことを忘れさせようとする。
それが、彼なりの優しさなのかどうかはわからない。
それでも、私が彼女のことを忘れることはない。
彼女を忘れない限り、私は眠らない。
故に全てを冥王に明け渡せない。
つまり、冥王の器になりきれない。つまり、私は役立たず。

そんな私に、何故、冥王は優しくしてくれるのか。


「…っ、冥王」
「大丈夫カ?」
「私…冥王の、器なのに…っ」
「良ィカラ、ユックリ、ォヤスミ。θハ、ェレフヲ愛シティル。ソレハ、エレフガθノ器ダカラジャナィ、エレフダカラダ。」


瞼を開けば、優しい笑みを浮かべている冥王がいた。

私なんかを愛してくれる冥王が愛おしい。大好き。愛してる。

堪らず、冥王の白い首筋に唇を寄せる。
そこに紅い印が残るのに満足していると、冥王も同じように私の首に印を残す、


「冥王様…大好き…」
「θモダ…エレフ。」









*****







『ミーシャ…ミーシャ!!』
「………うるさい」


目の前で水面を見て涙している自分。
これは、あの日の自分。
ミーシャを失った時の自分。

片割れであるミーシャを失ったのは、本当に悲しい。
でも、ミーシャを忘れない限り、私は冥王様に全てをあげられない!!


頭に血が昇ったような気がした。

気付いた時には、私はもう一人の《私》の首を絞めていた。
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