物語
□奈落から奪った月
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「………何者だ。」
「俺は……イヴェール。通称、夜のイヴェール。」
黒き双剣を構え、自身を睨んでくる相手に、正直冷や汗をかいていた。おそらく、こいつは何の躊躇もなく切り付けてくるだろう。
それでも、俺は行かなくてはいけない。
「どいてくれないか、エレフセウス。」
「断る。冥王が言っていた。貴様の目当ては、ローランサンなのだろう?」
「チッ、あのマヨラーが…」
「冥王を愚弄して良いのは、私とμ、φだけだ。…そんなことはどうでも良いから、元来た道を帰れ。」
「断る。」
何故、屋根裏の住人である俺が、冥府の入口でエレフセウスと言い合いをしているのか。
それは数時間前に遡る。
黄昏のあいつと同じく、物語を観測する力を持っている俺は、ありとあらゆる物語の中から、ローランサンの物語を見ていた。
何故、サンなのか?
おそらく、盗賊の時に一度会ってるからだ。
と、言っても一瞬だ。
朝は盗賊のハジマリ。
夜は盗賊のオワリ。
即ち俺は、宝石に捕われたイヴェール。
イヴェールが生まれない限り、永久に屋根裏に縛られることになる存在。
そんな俺の唯一の楽しみは、サンの物語を見ることだった。
サンが屋根裏に来ない限り、けして触れらることはできないんだ。どんなに思っていても、だ。
見るくらいなら自由だろ?
だから、ずっと見ていた。
赤髪の騎士に復讐するサンを。
盗賊として生きているサンを。
そして…
風車の村で宝物を失ったにもかかわらず、復讐することなく生きていたサンを。
最初は凄く戸惑った。
俺の中でローランサンと言えば、復讐の炎を纏っているか、もしくは少しドジな奴だった。
それが、そのサンは復讐の炎を燃やしておらず、ただ無気力に日々を過ごしているだけだった。
風車の村から逃げて、他の村に行ったみたいだが、彼女を置いていってしまったことを悔やんでいるのだろう。
サンは親切な村人達に面倒を見られながら、なんとか生きているような状態。
極度の鬱状態のような、まるで、魂のない人形のようだった。
その上、何の拍子もなしに自らの手首を傷付けたりする。
お世辞にも、あの太陽のようなローランサンとは思えなかった。