...その他WJ

□傘
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傘を差すことが嫌いだ。

腕は疲れるし何かと邪魔になるし、鬱陶しいので余程の大雨でも降らない限り沖田は傘を差さないことにしていた。



「クソ警官、私みたいな善良な民間人に尽くすのがお前の仕事ネ。私の下僕になるとヨロシ」

「クソチャイナ。お兄さんは忙しいんでぇ、ガキは帰って眼鏡の乳でもしゃぶってな」

昼下がりの公園はとにかく子供が多くて騒がしい。そのうちにかくれんぼを始めたらしく、鬼の子供がいーち、にーい、と間の抜けた調子で数を数えた。

沖田はその隅にあるベンチの背後で、神楽の傘を持たされたままぼーっとその光景を眺めていた。民間人のお嬢様の下僕として、彼女のか弱いお肌を晩夏の厳しい日差しから守って差し上げているわけだ。

神楽はというと、珍しく鬼ごっこにも加わらず、ベンチで丸くなっている。沖田が翳した傘が作る丸い影の中にすっぽりと収まる小さな体は、日頃の強靭な印象とかけ離れて儚く見えた。

腕が疲れた。

沖田はんん、と小さく唸りながら傘を左手に持ち帰る。さすが夜兎族愛用の傘は、一般のものとは一味違って恐ろしく重い。よくも毎日こんなものを差して歩けるなぁと言いかけて、口を噤んだ。



差したくて差してるわけじゃねぇか。



神楽はぴくりとも動かない。眠っているのだろうか。沖田からは表情が全く読めないし、彼女も微動だにしないから様子がわからない。
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