...復活

□ずっと待ってた
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練習を終えて教室へ戻ると、窓際に凭れて煙草を吸っている獄寺がいた。ドアの開く音に気づかない筈はないので、振り向きはしなかったけれど、山本が教室へ入ってきたことを獄寺は認識しているはずだった。

練習中、何気なく自分の教室の窓を見上げると、いつもの不機嫌そうな顔で野球部の練習風景を見ている獄寺を見つけた。目が合ったのでにこやかに手を振ってみたら、当然のようにコーチの怒声が飛んできた。叱られる山本を眺めていた獄寺の口が、何事かぼやく。バカが、とか、そんなんだろう。

「待っててくれたのか、」

何の他意もなくそう言って獄寺の肩を叩くと、彼はいつものように悪態を吐かなかった。馴れ馴れしいんだよ、と跳ね付けられるのが常だったので、山本の方があっけに取られる。獄寺は、押し黙って煙を吐いていた。

「あ……、ちょっと待ってな、すぐ着替えるから」

獄寺の表情は焦れているようにも見えたので、山本は待ちくたびれたのかと思い、帰り支度を急ごうとした。けれど、そう断って離れようとすると、何故か動けない。あれ、と思い、顧みると、獄寺が山本のユニフォームを指先で捕まえていた。仕草は幼子のようにかわいらしいのに、顔は相変わらずグラウンドを見つめたままだ。

「獄寺、何?」

何も言わない、何の反応も返さない。にも関わらず、獄寺の態度は山本からのアクションを求めているらしかった。それが何か瞬時に察するなど、鈍い山本に出来るはずもなく、彼は怪訝に目元を顰める。

「……なに、獄寺」

とん、と胸の辺りに小さな違和感があって、山本は目を丸くした。違和感を手繰るように視線を落とすと、獄寺が肩口に頬を寄せ、息を詰めている。


???????


山本はぽかんと口を開けたまま硬直した。あの獄寺が。あの懐かない猫が。今まさに甘えるような仕草で俺の胸へ頬を摺り寄せている。これはどういう状況だ。獄寺は、何のつもりだ。

全開の窓から、生温い風が吹き込んで、獄寺の髪が山本の首筋で揺れた。途端説明のつかない衝動が頭を真っ白にして、気づいたら目の前に獄寺の顔があった。

キスをしても、獄寺は伏し目がちに俯いているだけで何も言わない。ただほんの少し頬が赤らんでいたから、イヤではないのだろうなと思った。

痩せた腕を捕まえて、強く抱きこむと、獄寺は山本の唇に歯を立てた。血が出るほどではない、僅かに赤く染まる程度の甘噛みに、全身の血が沸く。舌を絡めて、強引に口内を掻き回すと、獄寺は溜息のような声を漏らす。

「……ア……」

「……っ」

身体が離れたときには、お互い口をきける余裕がなかった。山本はロッカーから自分の鞄を引きずり出すと、ユニフォームのまま教室を出た。物言いたげに自分を睨みつけていた獄寺を置き去りに。

獄寺が何を言いたいのかはわかっていた。山本の中でも答えは決まりきっていて、あとはそれを獄寺に告げるだけなのに。

やさしくされるのに慣れていなかった。特に、獄寺からは。

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