折々の鐘:パルミエの日々

□目次【冬】
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〔幻雪見〕
常に温かくて穏やかな気候のパルミエ王国。だけど一年に数ヶ月だけ、布団から出たくなくなるような気温の日が続く。
ある年の、その数ヶ月間は例年よりも冷えていた。

「みんな、口にする話題は毎日一緒だな」
厚く雲がかかる空を見上げてナッツが呟く。どんよりとした天気とは対照的に、その口元は楽しげ。
――今年は雪が見られるでしょう
この季節に入ってから間も無く、気象予報が発表した内容に国中が大騒ぎだった。
パルミエは、めったに雪が降らない。雪を知らないで過ごす者も少くない……僕達もまだ見たことが無い。
だから例年より寒く、そんな発表のあった後は、みんな‘おはよう’の挨拶よりも早く‘雪’という単語を口にする。
雪じゃなくても、霜とか氷とか、普段は縁の無い物に過敏になっている。

「雪が降ると、その時だけ現れる生き物がいるらしいぞ」
「ええっ?初耳だ!」
「雪女郎とか、雪男とか」
「???
ゆ……ゆき、おんな?おとこ?
どんな生き物なの?」
「詳細は不明だが、幻の生き物らしい。雪女郎は物凄い美人で、雪男は毛むくじゃらの大男。
会うと命を奪われるとか不幸になるとか……」
「……それは、ちょっと……」
「逆に幸運をもたらすとも」
「……会いたく無いような、会いたいような……」
尽きない話題。
尽きない好奇心。

「ココ、今夜は一番の冷え込みらしい……いよいよ降るかもしれないぞ、雪」
ナッツの言葉に思い付く。
「今夜は寝ないで雪を待とう!」
僕の部屋。ひとつの狭いベッドに、ぎゅうぎゅう二人で詰めて潜り込む。
「知ってるか、ナッツ。
最初に降ってくる雪に触る事ができると、願いが叶うんだって。触りたいなぁ!」
「……ここで待っていたらどう考えても無理だろう。
お前、外で待つか?」
「…………いや、いい」


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