折々の鐘:パルミエの日々

□目次【春】
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〔部屋割り〕
年に二回ある寮の部屋割りの時期がきた。
希望者は二人部屋・三人部屋も使える。
同室者がいると息苦しいという者もいるが、これが意外と人気なのだ。
元々一人部屋しか無かった寮を改装して二人用三人用を作ったのだから、広くて新しくて、綺麗で快適。
ただしトラブルを避けるため、希望者同士が相手の名前を挙げた場合のみ、抽選を受けられる。

「―なぁ、ナッツ。
今度 二人部屋の希望、出さないか?」
ぽかぽかと暖かい昼下がり、ココは読書に耽る親友に声をかけた。
「二人部屋の奴らに聞いたら、やっぱり良いって。
お前さえ構わなければ、オレはお前と同室希望なんだけど……」
「断る」
文字を追う瞳を上げること無く、ナッツは言い放った。
「干渉されるのは、好きじゃないんだ。
…一人の方が、気が楽だ」
「なんだよ……そんなに冷たい言い方しなくても良いだろ?」
「ハッキリ言わないと、ココはしつこいからな」
「ハッキリ言われても、オレはしつこいんです〜」
べっ、と舌を出しておどけて見せた。
「…今だってほとんど一緒にいるんだし、同んなじ部屋の方が、いいだろ?
色々と、さ」
金の髪を指に絡めて、その感触を楽しむ。
その手は、すぐにパシンと叩かれた。
「―とにかく、同室は無しだ!
……勝手にオレの名前を書いたら、承知しないぞ」
「さぁ、どうかな?」
読んでいた本を投げつけると、ナッツは出て行ってしまった。


数日後、ココは部屋割りの発表板の前に佇むナッツを見つけた。
「ナッツ?」
酷く驚いた顔で振り返り、その唇が何事かを呟いた、……ように見えた。
だかココが近付くより早く、ナッツは駆け足で何処かへと消えてしまった。
「?なんだよ…」
変なナッツ、と首を傾げていると友人達が声をかけて来た。
「希望も出してないのに見てんのかよ?」
「ココは、てっきりナッツと同室になると思ってたよ」
「あ、俺も。
ココ、希望 出さなかったの?」
口々に言われる内容に、苦笑してしまう。
「希望はしてたんだけど…振られちゃって」
その返事に、一人の友人が変だな、と呟いた。
「僕、抽選委員で見ちゃったんだけど…
ナッツ君、ココの名前を書いてたよ?だから、当然二人は同室決定だと…」


「……え?」

しまった、と思った。
そうだ、ナッツの裏返しの態度。
嫌われないように遠慮したけど、間違えた。

「…本当に、素直じゃないなぁ」
次は、何としても 同室 で。


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