Euthanasie.

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「リリーベル」

名前を呼ばれた。
気がするのだけど。
振り向いてみても、そこは午後の日差しにくすぐったそうにしている廊下だけ。
ピーブズ?
でも今の暖かな声はきっと出ないだろう。
(判別できるくらいに彼のイタズラに遭ったのだと思うとちょっと複雑)
気のせいだったのかもしれない。
そう結論付けて体を前へ戻した。


「ああ!驚いた」

「おや、驚かせてしまったかの」

ほっほっと本当に無邪気に笑う。
さっきまで独占していた廊下は、何の音も立てずに取り払われていた。
いつかぶりの変わらないこの雰囲気に嗚呼なんて子供のような老人なんだろう、と飽きることなく感嘆した。

「わざとらしいですよ」

「こういった挨拶は苦手かな?」

「いいえ、大歓迎です」

次回は天井からどうですか?、なんて戯れを口に湛えて笑い返す。
ホラー映画みたいなポジションだけど校長ならお笑いになってしまうだろう。


「ナイスアイデアじゃ!
子供の発想とは、いつの時代も知識以上に勝るものがある」

「校長の方が私よりずっと子供ですね」

羨ましいな、と呟いて。
見た目こそ私は子供なのだけれども。
リアルコナン状態に溜息をついた。

「それで、用事は何ですか?」

「おお、忘れるところじゃった!
うむ、そうじゃな。少し急じゃが....。

将来素晴らしい魔女の卵である君を認め、ホグワーツへの入学許可証を発行する。
おめでとう」


銀細工の三日月の眼鏡に縁取られた、淡いブルーの瞳が眩しそうに揺らめく。
大きな皺だらけの手の中の手紙。
蝋が昼下がりに包まれてはしゃいでいる。



「こんな嬉しいこと、忘れないで下さい」

今だけは、きっと子供のそれだった。

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