Euthanasie.

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アリスはこんな気持ちだったのかな。
喋る似合わない正装をした白兎は、彼女にとって魅力的だったに違いない。
いや、この時点で彼女は求めていた。
退屈しのぎを。
形は知らなくとも、下らない金色の午後をナンセンスにぶち壊して欲しかった筈だ。
アリスは求め、世界はそれに答えた。
結局それらは無に帰してしまうけれども、彼女の午後は見事につぶされたのだ。
空虚なハッピーエンドである。

でも果たして私は求めていたのだろうか。
退屈はしてた、人並みに。
切り離された私。
望みも否定もしなかった。
別に、過去となってしまった世界に対して信じていたわけじゃないんだ。
裏切りとは違くて。
残り香もエンドロールもないこの状況は、一言で言うならば後悔だった。
一に後悔、二に寂しさ。
借りっぱなしのCD、予約していた美容院、約束してたお泊り会、嫌々受講した夏期講習....。
指折り思い出すたびに切なさがこみ上げてきて、被っていた布団を握り締めた。
布団越しから朝のにおいがする。
起きなくちゃ。
寂しさとの冷戦は一時休戦。

きっと止むことはないんだろうな。


* * * * * * * *


「おはようございます。
マクゴナガル先生」

昨日の大広間に行くと、既に朝食を終えたマクゴナガル先生がシンプルな黒いカバンと丸められた羊皮紙を持って待っていた。
待たせてしまったらしい。
もう少し早く来ればよかったな。

簡単に挨拶を交わした後、手に持っていた羊皮紙を口答で説明しながら渡された。
イギリス特有の....えっと独創的な風味のオートミールを胃に流し込んで、若干大きい制服を捲くりながらそれを受け取った。
几帳面な文字で綴られた羊皮紙は、どうやら一週間のタイムスケジュールとそれぞれの教科の簡単な説明らしかった。
変身術や呪文学や飛行訓練など曖昧な....って飛行!?ちょ、お前はプテラかよ!?


「ままま、マクゴナガル先生...!
大変残念ながら私には翼がありません!」

「何の話ですか?
飛行訓練は箒を使って行います」

「あ、なるほど....」

びびった....!
変身術とかあるから、てっきりリザードンにでも変身して飛行訓練するのかと....。
落ち着いてもう一度文字を見直した。
各教科の名前の横には担当教師の名前と、○と×印のいずれかがついている。
恐らくこれが受講の有無なのだろう。
殆どが知らない名前が羅列されている中、見覚えある名前の横に×印がついていた。


・魔法薬学 スネイプ教授 ×


(うわあ、このあからさまな拒絶反応)

強烈過ぎる昨日の記憶を呼び戻して、倉庫の中を出来るだけ鮮明に頭に浮かべる。
机上に置かれた使いかけの羊皮紙や筆ペンを思い出し、外出の様子が全くないあたりスネイプ先生が今日から出張などという事はきっとありえないだろう。
それは、切り離された私に更に追い討ちをかけるには十分なものだった。
否定は兵器だと人知れず思う。
逃げるように魔法薬学の下の欄へと視線を外した。


「マクゴナガル先生は変身術なんですね。
よろしくお願いします!」

「ちなみに1、2時間目です」

「....はは」


それは楽しそうに微笑むマクゴナガル先生に困ったように笑い返した。

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