Euthanasie.

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「リリー、喉はもう大丈夫か?」

ハグリッドが手に持ったランプを揺らしながら、顔色を伺ってきた。
深い紺色だけの世界に、ぽっかりと橙色の灯りがぼんやりと浮かんでいる。
灯りが心配そうに眉を潜めている彼に、柔らかな影を作っていた。
夜の11時の校庭は薄ら寒くて、私はローブを握り締めながら微笑んだ。
へらへらと笑う私が気に食わなかったのか、横から外気よりも冷たい声が響く。

「フン、これから喉が痛いどころではなくなるのに、何を心配してるんだかねぇ」

フィルチが横でせせ笑った。
私達の罰則を心の底から楽しんでいる。
ネビルが隣りでぶるぶる震えながら、私のローブの端を掴むのが分かった。
大丈夫だよ、とその幼い手を包み込む。
罰則でみんな顔を青ざめている中、それでも顔色の変わらない私が彼にとってはどうしても許せないらしい。
吐き捨てるような次の一言に、つい握っている手を振るわせた。

「どこから来たのかも分からんこいつなんぞ、狼男の餌に....」
「フィルチ!」

ハグリッドが吼えるように叫んだ。
あまりに大きな声にフィルチは勿論、ハリー達も小枝のように揺れた。
その声に、逆に私は平静を取り戻す。
私が違う世界から来たことは、口外無用だ。
口を滑らせた彼に怒る気は起きなかったけど、なんてことない寂しさを思い出した。
ハリー達が眉を顰める中、激しく怒る優しい森番に何てことないと微笑む。

「ハグリッド、私は気にしてないよ」

「しかし、リリー....」

「これ以上夜が耽る前に説明をしてほしいな」

ハグリッドは不服そうな表情のまま、にたにた笑って校内へ戻るフィルチを見送った。
ドラコがじっとこちらを見て離さない。
とある緑の目が、相変わらず何を考えているのか分からない瞳でこちらを見ている。
気付かない振りをするしかできなかった。

「ねぇ、リリー」

「よーし、それじゃ、よーく聞いてくれ」

ハーマイオニーが、おずおずと話しかけてきた。
でも私が口を開くよりも早く、ハグリッドが彼女の質問を遮る。
意図的に阻まれたその言葉を聡い彼女は繰り返すことなく、不安そうな色を浮かべたままハグリッドへと意識を移した。
別に、絶対秘密の内容ではない。
私自身さして気にしていないし、踏み込まれてしまっても仕方がないことかもしれないと、心のどこかでは思ってる。
秘密というものは、とても分かりやすい境界線で、それは有刺鉄線みたいに痛々しいものになってしまうことも知っていた。
ならばいっそ取り払った方がいいのでは。
そう思いながらも口は閉ざされたまま、ハグリッドの説明をただぼんやりと聞いている。
彼らを傷つけるくらいなら、話してしまった方がいい。

でも、踏み込んではほしくないな。

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