Euthanasie.

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ハリー達が賢者の石を不安に思う中、予定通り試験が行われた。
乾いた紙と何日も向き合った褒美という名の休日の今、最後の魔法史の試験を終えた生徒達の歓声を浴びながら私達は校庭へ駆け出していく。

「リリー、手ごたえあった?」

ロンが晴れ晴れとした表情で聞いてくる。
さんさんと降り注ぐ校庭が、試験終わりの彼らを祝福しているみたいだった。

「まあまあかな。
ロンはどうだった?」

11歳を対象とした問題だ。
答えを知らなくても解ける問題がいくつかあったのを思い出して、ちょっと笑う。

「嗅ぎタバコが毛皮のケースになっちゃったよ」

「毛皮だなんて、高級でいいじゃん」

変身術の試験は、ねずみを嗅ぎタバコ入れに変えるという内容だった。
変身術は得意な方だったから、原材料名のところまで凝って呪文をした記憶がある。
試験の感想を聞き合いながら校庭の外れに位置する湖のほとりの草の上に寝転んで、ほのぼのと自由時間を堪能した。
ただ、ハリーだけが険しい顔をしていたけれど。

「ハリー、傷がまた痛むの?」

浮かない表情の彼に聞いてみると、傍の草を見つめながら黙って頷く。
いらいらした眼差しは、禁じられた森以降ずっとだった。
それが試験によるストレスだったなら、とても簡単なお話なのにね。

「マダム・ポンフリーのところに行った方がいいわ」

「僕は病気じゃない。
きっと、危険が迫ってるって警告なんだ」

ハーマイオニーが心配そうに声をかけるも、ハリーは強ばった表情を変えずに答えた。
ロンがうだるような暑さに顔をしかめながら、ハリーをなだめる。
きらきらと初夏の色合いの湖の奥に佇む、闇色の森をぼんやりと見つめた。
ふと、処罰を受けたあの後のハリーがケンタウルスから聞いたことを私達に伝えたのを思い出す。
ハリーたちの考えでは、スネイプ先生がヴォルデモートのために賢者の石を狙っているらしい。
先生がそんなことするとは思えないけれど。
ハリー達の先生への疑心の強さも気になったけど、何よりもその夜ハリーの元へ戻ってきた透明マントの方が引っかかった。
ハリーは、クリスマスのときの手紙と同じ筆跡で[必要な時のために]とメモがついていた、と熱っぽく話していた。
それがどうも、罠にしか思えない。

ハリー達は賢者の石で頭が一杯の様子だけど、話を外側から見てみると少し出来すぎていると思う。
だって、ハリーたちは知りすぎている。
賢者の石も、ヴォルデモートも、彼らが懸念するレベルを超えたものだというのに。
それとも彼が生き残った少年だから?
その理由だけで、この疑問は片付けられるのだろうか。
でも、私にはどうしても人工的な匂いを含んでいるようにしか思えなかった。
誰かが、裏で糸を引いている気がする。
賢者の石を狙う人物、ハリー達を役者にして、手の上で弄んでいる、誰か。

「どこに行くんだい?」

眠たそうなロンの声で、思考を中断する。
丁度、ハリーが顔を真っ青にして立ち上がったところだった。

「ハグリッドに会いに行かなくちゃ」

ハーマイオニーが理由を求めたけど、ハリーは既に校庭の斜面を駆け下りていた。
ロンとハーマイオニーがその後に続く中、私は校内へと足を進める。
冒険心に満ち足りている彼らを悪いとは思わない。
でも、私はこれがどこかの茶番にしか見えなかった。
自分の黒いローファーが、中庭へ通じる石畳を軽快な音を立てて進んでいく。
黒幕の方が、ずっと気になった。



「ああ、リリー!
丁度いいところに現れました」

廊下に出た途端、マクゴナガル先生が曲がり角の手前で声をかけてきた。
姿を見なくても、声だけで直ぐに分かる。
きっと本人も無自覚だろうけど、彼女が生徒を名前で呼ぶのは私以外にいない。

「何ですか?」

「本を運ぶのを手伝って頂けますか?」

そして、こんなにフランクに頼むのも私だけ。
それはちょっと嬉しいことだった。
例えパーキンソンたちに媚売り生徒と指を指されようとも、だ。
優しい彼女の頼みごとに、私は二つ返事で了解した。

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