Euthanasie.

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クリスマスの次の朝、ハリーは目の下に隈を残して談話室にやってきた。
一緒に降りてきたロンには事情を話したのか、隣りで彼が何かの不満を言っている。
今晩は2人で校内を徘徊するのかな。
怪我だけはしてくれるなよ、と心の中で呟いて料理本に目線を戻した。

クリスマスの次の日とは、日本で言うお正月の次の日とよく似ている。
こたつの変わりに、みんなが暖炉へと誘われるように集合する。
私も例に漏れずにそこへ腰掛けた。
双子が暖炉でマシュマロを焼いているのか、甘く香ばしい匂いがする。

「リリー、何を読んでいるんだい?」

昨日から気になってたんだけど、とパーシーが膝の上で開かれている本を指差す。
ページは丁度カポナータの作り方が書かれていた。
丁寧にナスの絵まで付いているのに、何でそんな質問をするんだろうか。
もしかして、パーシーは教科書以外の本には滅法弱いのかもしれない。

「イタリア料理の本だよ。
昨日のプレゼントで貰ったの」

興味があったらどうぞ、と冗談めかして言えば丁寧に断られる。冗談なのに。

「ああ、だから読めないわけだ」

「え?」

「それ、イタリア語だろう」

何が書いてあるか全く分からないよ、とカポナータの材料のあたりを指差される。
そういえば違和感なく読んでるけど、彼らからすれば異国語だ。
日本語の漢字とかならともかく、同じローマ字だから全くもって気付かなかった。

「へぇ、リリーはイタリア人なのかい?」

何処からともなく双子が現れる。
あれ、さっきまでマシュマロ焼いてなかったっけ。と隣りに顔を出したフレッドを見つめた。

「半分ね」

「じゃあもう片方は?」

パーシーの方からひょっこりと顔を出したジョージが聞いてくる。
いや、だからいつの間に移動したんだって。

「何だと思う?」

暇つぶしの謎謎。
双子が真剣に悩む中、私は無防備になったマシュマロへ手を伸ばす。
あ!と双子が気付く頃にはもうお口の中。
少し焦げ色の付いた外見はさく、と良い音を立てて下の上で崩れる。
ふわふわの中身は熱くて甘くて、素朴な味につい、にこにこと笑った。

「スパニッシュ?」

「はずれ」

「じゃあ....ドイツ?」

話を聞いてたロンが途中から参加するも、言った直後に自分で違うと訂正した。
スパニッシュだとばかり思っていたのか、パーシーがもんもんと考えながらもマシュマロを口に含んだ。
途端に、彼の髪の毛がパッションピンクになる。
傍らで双子が手を取り合って大はしゃぎした。
どうやらマシュマロには当たり外れがあるらしい。
セーターと同じ、変わらない自分の髪の毛に安心しつつも、彼らの予想を待った。

「あえてのイングリッシュ!」

「はずれ」

「ロシアとか?」

「寧ろなりたい」

「分かった、実は妖精なんだろう」

「寧ろなりたい」

ロシア人の肌の白さ羨ましい。
中々ヨーロッパから抜け出せない(飛びすぎて人外もあった)彼らの予想に、何だか複雑な心境。
ホグワーツにおいて、いかに日本文化との接触が皆無だったか思い知らされる。

「フランス!」

「寧ろなりたい」

「エジプト!」

「寧ろなりたい」

「....日本とか?」

「あ、うんそれ」

ハリーが当たりのマシュマロを頬張りながら、徐に呟いた。
え、と全員が硬直する。
双子が今世紀最大のびっくりをされたような顔で見てくる。こっち見んな。
パーシーがパッションピンクの髪のまま、口をあんぐり開けた。
そうかそうか、そんなに見えないかお姉さん悲しいぞ。

「え、日本人て着物来て褌締めてちょんまげをしているんでしょ?」

「ロン、君はそろそろ文明開化しようか」

「じゃあ豪火球出してよ!」

「私、うちは一族じゃないんだ」

「父さん、妖気です!」

「いや、妖怪アンテナ立ってないし」

何このとんでも誤文化。
双子に至っては漫画の知識じゃんか。
私の髪の毛を立てて遊びだしたジョージに溜息を吐きつつも、今度「楽しい日本文化教室」でも開こうかと思った。

そういえば、ここに来てから母国へ足を踏み入れていないことに気が付いた。

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