Euthanasie.

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12月になった。
身を切るような寒さがじわりじわりとホグワーツに凍み込んでいき、廊下を歩く生徒の足は自然と速くなる。
授業以外は極力近寄りたくない、凍えるような寒さの魔法薬の地下室へ、私は懲りずに毎日足を運んでいた。
ほぼ完治した先生の足は、それでもまだ安静とは言えなかったからだ。

ロンとはクィディッチ以来気まずい空気が流れ、私から特に話しかけることはないまま、ずるずると時間だけがいたずらに流れていった。
あからさまではないものの、私の避けるような雰囲気に、ハリー達も必要以上は近寄ってこない。
それでも私の生活に狂いはなくて、授業を受けて、空いた時間に先生の包帯を代え、それ以外は図書館で本を読むか、もしくは談話室で双子と遊んでいた。
果たしてこれでいいのかと聞かれれば、はい。とは言えないものの、自分の言葉を撤回する気はない。
いくらロンが困惑しようが、ハーマイオニーが泣きそうな顔を見せようが、その点に関しては頑なに変えなかった。
後悔はしていない。
これで壊れてしまう友情なら、結局それまでのものだったのだ。


「リリー、どうしたんだい?」

隣りに座るジョージが、顔を覗き込んでくる。
反対側の隣りに座っていたフレッドも同じようにずい、と顔を覗き込んだ。
談話室のソファで双子に挟まれながら座る私は、急に視界に入ってきた2つの顔に笑いかける。

「ん、眠くなってきた」

パチパチと時折爆ぜる暖炉の暖かさと鮮やかさが、橙のゆりかごのように思えた。
周りに同級生はいなくて、先輩ばかりの空間に違和感なく私は腰掛けている。
というのも、私本来の精神年齢に近い彼らの方が話易いのもあった。

「「じゃあ僕の肩を貸してあげるよ」」

「私、頭1つしかないんだけど、知ってた?」

「「何だって!」」

驚き桃の木山椒の木!と両手を上げてびっくりするポーズをとる双子にくすくすと笑いながら、奥の席に座るアンジェリーナに声をかけた。

「アンジェリーナ、そっち行ってもいい?」

「いいわよ」

すると双子が取られた!と連呼してくる。
お互いが冗談だと知ってるから、表情は随分と穏やかなものだ。
隣りに腰掛けたところで、アンジェリーナが徐に話しかけてきた。

「リリー、大丈夫?」

じ、と見つめる目がクィディッチ試合中の彼女と同じものだったから、一体何に対してかはすぐにピンときた。
後ろで騒ぐ双子の声が遠くへ霞んでいく。
暖炉の明かりで透ける自分の髪を横目に捉えながら、なんてことない笑顔で答えた。

「平気よ、自分で蒔いた種だから」

「そう、ならいいんだけど....。
でも、向こうは相当参ってるわよ」

今はいない3人を、それでも談話室を見回して探す視線に苦笑してしまった。
当の3人は今頃図書館だろう。
彼らが勉強するとは、ハーマイオニーを除いてありえないから、きっと三頭犬に関することを調べているんじゃないだろうか。
そのことに特に介入するつもりはない。
最後にロンに言った言葉通り、「勝手に」してればいいんだ。

「でもどんなに思われたって、私にも曲げたくないものがあるよ」

「いつもふわふわの貴方がこんなに頑なんだもの、相当のものなのね」

「きっと、どんな魔法でも曲げられないね」

他人事のように呟いて、困ったようにでもそれ以上食い下がることはない、優しい先輩にお礼を言った。
暖炉の近くなのに、なんだか寒かった。

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