Euthanasie.
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「準備は完璧。
ドリー、支度終わったよ!」
目の前に優に私1人は入るであろう大きなトランクが横たわっていた。
皮製のそれに杖を振ってベルトを付ける。
入れ忘れは今のところない。
背後のドアが開く音がした。
「お疲れ様です、ディフェット様。
こちらも片づけが終わりました」
「リリーでいいのに」
すると、目の前の屋敷しもべ妖精は羽のような耳を振り乱して首を振った。
彼女の名前はドリー。
きらきらした大きな黄緑の瞳が綺麗な子。
1日先にホグワーツへ行ったポッピーが、心配だからと言って日雇いでホグワーツの厨房から彼女を呼んだのだった。
心配症な気も否めないけど、見た目11歳の私は何も言えなかった。
おかげでドリーと仲良く慣れたし。
1日半だけど、すごく楽しかった。
まじドリーかわいいんだけど。
ていうか屋敷しもべ妖精まじかわいい。
「じゃ、そろそろ行こっか」
ホグワーツへ行く、というよりもなんだか帰るという方が合っている気がする。
それはドリーも一緒だろう。
ドリーはしゅん、と耳を垂らした。
え、なにかわいいよ!
「私めは汽車には乗れません」
「なんだと....?」
えええええちょお待って待って!
私の脳内ドリーとキャッキャウフフな車内デート計画が音を立てて崩れていく。
1人でホグワーツ行くとか空しさで死ぬ!
「切符を持っておりません」
「買う、買えばおk!」
「それにマグルの多いキングス・クロス駅に一緒に行けません」
「ナンテコッタイ」
そうだ、駅にはマグルがうじゃうじゃいることをすっかり忘れてたよ。
ドリーが駅にいたら3秒で攫われちゃう!
「じゃ、じゃあここでばいばい?」
「そうでございます」
肯定の声に思わず涙ぐむ。
急に目前に迫ったお別れに戸惑う。
彼女と過ごした1日半が、走馬灯のようにぐるぐると頭の中でリフレインする。
「......ホグワーツでたまに厨房に遊びに行ってもいい?」
「もちろんでございます!」
「かわぇぇええ!!
でもさよならしたくないー!」
思わずドリーに抱きついた。
ドリ−もその細腕で抱きしめ返してきた。
壁掛け時計が「誰か突っ込め」と呟いた。