Euthanasie.

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ぽかぽかと心地よい陽気だ。
今日はよく晴れそうだと、1人気分を良くして木製の階段を降りた。

ポッピーの家に居候すること5日。
家の仕組みにも慣れ、彼女と過ごす時間も日ごとに彩りを増しつつある。
ホグワーツで、ある程度魔法に対して自分が馴染んでいたのもあるかもしれない。
でも、これは馴染むというより慣用だ。
表面的ではなく、内側へ溶けていく感覚。
本当に過ごしやすかったのだ。

彼女の家は、必要以上の物は殆どなかったけど、それでも私は充足しきっている。
仕事柄、本棚の中身は薬学系が大半を示していて、余計にそれが嬉しかった。
おかげで苦手だった薬草学も、ここ数日でぐんと理解が増した気がする。
何よりも。

「今日はバーニャ・カウダにしよう!」

自分で食事を作れる!
正直に言ってしまうと、だ。
イギリス料理は私の口には合わない。
原型も分からなくなるほどに食材を煮込む必要はあるのか、何の恨みがあってあんな質の悪い油をぶっかけるのか!
ホグワーツにいて一番思ったことだった。
日本の白米が恋しくなって、酷いときには夢にマルゲリータピッツァが出てきた。
ポッピーの家に来て、いの一番に宣言したこととは、掃除、家事、洗濯は全て自分で行うという権利の主張だった。
流石に全部は駄目だったけれど、半泣きでお願いすれば家事は任せてくれた。
最初は不満たらたらで包丁を使うのも躊躇ったポッピーも、その日の夕飯を食べてからは何も言わなくなった。
それ以来、三食の調理は私がしている。


「しまった、牛乳切らしてたんだ。
バターで代用しようそうだそうしよう」

お利口さんの包丁が、セロリやニンジンをスティック状に切っていく。
傍らでディップの材料を小鍋に放り込む。
本当は牛乳の方がいいんだけどな。
ついでに言えばクルミ油も欲しい。
最初はオリーブオイルがなくて泣きそうになったのを思い出した。
油といったらオリーブオイル、オリーブオイルといったら油だと定義していた頭は、カルチャーショックを殊更に感じた。
正直言うと、朝にこんなに食事をとるのもカルチャーショックの1つだ。
日本にいる頃でも、染み付いたイタリアの習慣はなかなか拭えなかった。
朝はシンプルかつ簡素に、が普通だった。
(その分お昼は豪勢だけれど)
まあ、これを機に自分の当たり前を変化するのもいいかもしれない。
堅物にはなりたくはないし。
(でも食事に関しては最低限主張したい)

「あら、早いのねリリー」

「おはようポッピー。
もうすぐ朝食が出来るから待ってて」

キッチンに顔を出したポッピーと、他愛のない挨拶を交わし皿に野菜を盛り付ける。
ディップはテーブルで温めたいところなんだけれど、ここにポットはない。
小鍋から器に入れ替えてキッチンを出た。


「お待たせ」

「ありがとう。
あら、今日は野菜尽くしね」

色鮮やかな野菜を見てポッピーが笑った。
朝から肉尽くしよりはずっと健康的だ。
手作りのテーブルクロスの上に皿を置いて向かい席に着席する。
時計が今更おはよう!と声を張り上げた。


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