Euthanasie.

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「..て事がつい2分前にあったんですよ」

「慌てて息を切らせて来たかと思えば」

そんなことか、下らん。
と薬品棚に視線を戻してしまった。
全速力で走った挙句、息を整える間もなくいきさつをべらべらと話したからか、まだ呼吸が安定していない。
でも、それくらい私には衝撃的だった。
これからの私はポッピーと日常を共有すると思うと、想像できなくてわくわくした。
ウサギ穴に落ちたアリスな気分だ。
空っぽのジャム瓶を手に取りながら、私は今不思議の国へ落ちてゆく。
落ちながら、食器棚をいじり、瓶を戻す。落ちながらだよ。


「先生は、....水煙管の青虫かな」

「いきなりなんだ」

「ここが不思議の国だったら、という仮定の空論の登場人物設定です」

「あんな屁理屈を言う役者に我輩が当てはまるとでも?」

「いいや全く」

正直、何にも当てはめにくくて困る。
青虫にしては、あまりにも現実的過ぎる。
かといって、青虫のように気分屋でもなければ他に適役者がいるわけでもない。

「あ、『涙に落ちたねずみ』なんていうのはどうですか?」

「....そんな役、あったか?」

棚に所狭しと並ぶ瓶の状態を用紙に書き込みながら、興味なさそうに返される。
私がふざけて縮み薬を作りまくった所為か雛菊の根が入った瓶には、髪の毛のような根が申し訳なさそうに2本だけ残ってる。
この前ハグリッドの鶏に飲ませたらひよこになって、ものすごくびびった。


「いますよ。
涙で濡れたみんなを乾かそうと、乾いた話をひたすらするねずみさんです。
悲しいお話(tale)もしたんですけど、尻切れ蜻蛉(tail away)になっちゃったんです」

あ、あとでひよこの様子を見に行こう。
ハグリッドとファングにも入学が決定したことちゃんと報告したいな。








「そうだ、私入学するんだ」

頬杖をついてた手をぴしゃりと叩く。
派手なのは音だけでそんなに痛くない。
斜め前の先生が、何を今更と言う。
ふわふわとした感覚が取り払われる。
頭を支えてきた肘の跡がリアル。
カタカタと瓶と瓶が手を叩く。
鼻につく薬品の匂いは、もう日常。


「なんか、実感なくて。
この日常がホグワーツなんだと思っていたばかりに、いきなり入学して、日常に少し色を付けたそれを認められて、間違い探しの2ペアのようにややこしいんです」

すると先生はこちらに振り向いた。
しかし何か言い出すためではなくて、むしろ私に続けろと言っているようだった。
こんな、ぐちゃぐちゃを口にしていいのか



「間違い探しのあの絵の間はなんですか」



こっち側とあっち側はどっち側ですか。
溶け切れないアリス概念が脳に染み込む。
どちらも、実は同じ1つで、でも紛れもなくこっちが小さくて、あっちが大きいの。
じゃあ、その真ん中はなんなの。
どうしてアリスは真ん中を選ばなかったの

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