Euthanasie.

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その後のことはよく覚えていない。
宿題だけは終わらせたと思う。
予習はとてもじゃないけど出来なかった。
暖かな達成感が心地良くて、あらゆる黄色の家具に囲まれて泥のように眠りについた。
あやふやな意識を手放す1秒前まで確かに幸せだったと思う。

ではこの涙は何なのだろう。

頬の冷たさで飛び起きると、辺りの全てが恐ろしく闇色になっていた。
昼間との違いにぞっとする。
今は真夜中なのだろうか。
窓から月を見ようとして、ここが地下だという事を思い出して仕方なく諦めた。
光を出す呪文もあるのかもしれない。
でも私はまだ浮かす呪文しか知らない。
肩に涼しさが圧し掛かってきて、それでもどうすることも出来ずに体を丸めた。
この世界は何もかもが沈黙している。
何か喋らなくては、と咄嗟に思った。
沈黙に、呑まれる。
世界に溶け込んでしまう。
何か、何か話さなくては___


「......あ、」

零れてきたのは嗚咽だった。
違う、こんな音じゃない。
こんな寂しいのは、いや。
どんなに否定しても止まらない。

「...っつ、..うあ、ぁ....」

寂しい寂しい。
こんなにも何となしに日々が過ぎていく。
私は薄情者だろうか?
泣いたって、変わることはない。
そう誰かが囁いている。
知ってる、でもそれでも寂しいのだ。
現実はこんなにも淡白に切り返しているのに、私は未練がましく泣いてます。
私が消えた日常は今も穏やかなのでしょう


今はこんなにも寂しいけれど。
いつかはどちらかに傾いていくのだろう。
今の涙が空泣きのように。
どちらか一方に依存して生きてゆく。
この世界はあまりに魅力的で綺麗だ。
好きなんだろう、この世界を。
でも、捨てきれないんだ。
大半は向こうに置いてきた。
誰にも気付かれずに、ささやかに。
心残りが腐って足元を濁す。


別れとはこんなにも寂しいものらしい。

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