Euthanasie.

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初日の午前中はとても順調にいった。
勝手に苦手意識を感じていた変身術の授業は、今まで受けたどの授業の中よりも楽しく、そして興味深いものだった。
理系頭の私には分かりやすいものだったし、マンツーマンで気軽に質問できる環境が、理解の手助けをしてくれた。
大量にだされた宿題を軽やかな笑顔で受け取ったのはきっと初めてに違いない。
ものの10分たらずでノートの内容を理解し、マッチ棒を針に変身させた私にマクゴナガル先生も大喜びだった。
私も一緒に喜ぶと同時に何となしに言った先生の一言が離れなかった。

「リリーベル、貴方の才能は本物ですよ」

そんなつもりで言ったのではないだろう。
でも、この世界の適応の早さに、それこそ飲み込まれるような速さで溶け込んでいく自分が少し怖くて、寂しかった。
違和感なく組み込まれていく様に人知れず恐怖し、ぼやけた寂寥がチクチクと痛い。
直隠しに、怖かった。
違和感なく取り込まれていって、そうやって忘れてしまうことが。


(素直に喜べない自分が嫌)

その後のフリットウィック先生の教える、妖精の魔法も絵に描いたような童話の魔法そのもので(というか先生がファンタジー)談笑しながら羽ペンを浮かしていた。
そして昼食の肉料理(和食が恋しくなった)を食べ終えた今、私は暇を余していた。
基本午後は空いており、図書館に行こうかと考えたけど、残念な事に場所が分からない。

考えた後、出された宿題をする事にした。
それが一番賢明だよね。
寮に戻ろうと地下へ階段を降りていると、


「う、ああぁあ」

がくん、という衝撃の次には階段がひとりでに動いていた。
思わずしゃがみこんで手すりに掴まっていると階段は左側の踊り場に繋がっている。
どうしようか、と悩む時間もなく私は滑るようにその踊り場に向かって行った。
踊り場から振り向いた時には予想通り、また階段が前触れもなく動いていた。
何これ横エスカレーター?と思いながら、はたと前を見る。
本来行く筈のなかったルートだけど、まあ地下にはきっと繋がっているだろう。
ただ階段降りればいいだけだし。
安易に決めこんで、その場を去った。



後に、この行動に感謝することになる。

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