平成も乱世も巡らない
□箱入り
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「あー疲れた」
「何をして疲れたと言うのかね、日がな一日中そうして私の足元にへばりついていて」
「さあ、分かんない」
ポキポキと首を鳴らすと、オジサンに鼻で嗤われた。
今日は一日、小太さんが不在のようだった。いつも彼の監視下にある私は自由だったのだけど、如何せんやることが何も無く、このオジサンにひっつき虫してるしかなかったのだ。そのオジサンもいちいち私にかまってくれる筈はなく、好き勝手に書物を読み漁ったり何かの器を磨いたり、とにかくそんなことをしていた。…のを、私は眺めていた。退屈って、疲れる。
「成すべき事というのは己で見付けるものだ」
「え、嫌ですよめんどくさい」
「自立をしなさい」
「自立ねぇ…」
オジサンが何か書き物を始めたので、私は部屋の隅に置いてあった座布団を重ねてその上にうつ伏せに寝転がる。足をぱたぱた振ると止めろと言われてしまった。机に向かってるくせに見えてやがる。恐ろしい初老だ。
「いやホントに、自立しないと駄目だなとは思ってますよ」
「ほう」
「このままじゃ、筆頭達のこと駄目にしちゃうだろうから」
「そうかね」
「そうですよ」
「本当に、そう思うのか」
「…はい?」
座布団に顔を押し付けていると筆を置く音が聞こえて、反射的に顔を上げた。
身体ごとこちらを向いたオジサンがちょいちょいと手招きする。素直にそれに従って彼の前に正座すると、顎をさすりながら何故かアホの子を見る様な視線を向けられた。
「君が自立出来なければ独眼竜が駄目になる、そう思っているのかね」
「…まぁ」
「逆だと思うが」
「逆?」
首を傾げれば、わざとらしく溜息をつかれる。そしてオジサンは面白そうに口角を上げた。
「本当に君が己で立てる様になれば、それこそ独眼竜は駄目になると思うがね」
「何でですか?」
「自分で考えるといい」
「えー…」
不満げな声を出してむくれてみれば、オジサンは愉快そうに声を上げ、私の頭をくしゃりと撫でる。
意地が悪いくせに何となく優しさを孕む手は、柔らかな熱を帯びていた。
箱入り
結局、どこにいても囲われてる
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