□答えを求めて
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夜も更けて、大きな月に照らされながら空を行く。
甲板で酒を酌み交わす私達を、月は何を思うのだろう。



甲板に座り込んでいる私達は、風に煽られながら酒を飲む。飲んでいるのはもう晋助様だけだけど。私はとうに飲むのを止めた。


「晋助様、少々飲み過ぎでは」

「うるせぇよ」


晋助様が酒に強いということなら知っている。もう何度もこんな夜を過ごしてきた。自分の限界を知っているということも、私は知っている。
だからこそ、今宵は飲み過ぎだと思うのだ。もう何本もの徳利が転がり、晋助様の顔は赤く色付いている。この会話だってもう4度目だ。


「膝貸せ」


胡坐をかいた私の膝の上に晋助様の頭が乗る。伝わる温度は温かい。そっと触れた髪は思わずくしゃくしゃと撫でたくなるくらい柔らかくて、それが何だか悲しかった。


「俺ぁ間違ってんのか?」


月が大きく、風が冷たい日。晋助様は必ずと言って良いほどこの問い掛けをする。私はいつも何も言えない。


「世界をぶっ壊すのは間違ってるか?」


私の髪に手を伸ばす晋助様の右目は揺らぎ、切なく細められた。
私はそんな晋助様の頭を撫でることしか出来なくて、他に刀を握るしか脳の無い両手を恨む。


「私には分かりません。ですが、貴方がそう思うのならそうなのでしょうね」


「…俺次第…ってか」


私の髪を梳く晋助様の手は優しくて、本当に世界を壊してしまえる力が有るようには思えない。きっと、もっとたくさんのものを愛でたかっただろうに。


「全ての答えを知るものなど、果たしてこの世に存在するのでしょうか」

「さぁな……だがもし存在するなら、」



私ごしに月を見上げる晋助様は、きっと自分の痛みに気付いていない。
月に向かって伸ばしたその手が、本当は何を望んでいるのか、気付いてはいないのだろう。


「そりゃ神か仏か、はたまた死んだ人間だけだ」



そう言った晋助様の瞳は、涙こそ流れはしなかったけれど、大きな声で泣いていた。





答えを求めて

この人は何を探しているのだろう。
答えなんて、どこにも無いかもしれないのに。


そんな風に思う私は、この人に何を求めているのだろうか。




→あとがき

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