Novel

□怪我は災いの元
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(君達はイケナイ事をしたんだ)
(まぁ、どんなに腐っていたとしても、れっきとした人間なんだよねぇ。俺は人間を愛してるし…)
(でも、ね?俺のお気に入りを勝手に傷つけちゃうのは気にいらないんだ。……スッゴく)
(だからあの子よりも痛い思いをするべきだと思うんだ)


彼はどこかとても楽しそうに笑う。その笑顔から感じるのは憎悪と狂気、二種類の感情しか感じなかった。










ここは来良病院。
帝人はボーっと白い天井を見つめていた。

「まだ安静にしてくださいね」

点滴を付け替え終わった看護婦がそう言ったあと部屋を出ていく。帝人は今、ベッドから起き上がれない状態になっている。右腕の骨を折り左足の骨にヒビが入り、その上、何処かに頭をぶつけて少し切ってしまったらしい。


(僕って、かなり貧弱……)


自分の貧弱さにため息をついていると、病室のドアがガラリと開く音がした。ちなみにこの病室には帝人しか寝ていない。すなわち病室のドアが開くとしたら帝人の見舞いにきた人か看護婦ということになる。


(?…さっき看護婦さん出ていったばかりだし。この時間帯だと紀田くんや杏里ちゃんとかじゃないだろうな…。セルティさんは無理だろうし…。静雄さんは仕事だと思うから。………んー、誰?)


疑問を浮かべながら視線だけを入り口側に向けるとよく知っている黒を纏った青年がフルーツの入った籠を片手にニコニコと帝人の所へと歩みよってきていた。


「やぁ、具合はどうかな?」
「臨也さんだったんですか。来るとは思いませんでした」
「恋人が見舞いに来ない訳ないでしょ?」
「相変わらずウザイですね」
「太郎さんこそ、ツンデレは変わらないんですねっ!」


青年、折原臨也は帝人をからかいながら近くにあった椅子に座る。

「そう言えば、意外と遅いお見舞いでしたね。いつもの感じだと一番最初に来そうだなぁと思っていたんですけど…不本意ながら」
「ごめんね?ちょっと用事があってね。ちょっと遅くなっちゃったんだ」
「用事?…仕事ですか?」
「…んー……ちょっと違うかな」

動けない帝人をいい事にグリグリと頭を撫でる臨也だったが、何かを思い出したようで撫でていた片手をもう片方の手と合わせて自分の前でパチリと合わせる。

「そうだ!帝人君に見せたいモノがあるんだった」
「見せたいモノ?」
「うん、そう」

目の前に出されたのは一枚の写真。見えにくかったので、動かせる方の腕で差し出された写真を受け取り見えやすい所まで持っていく。



「…………っ!!!??」


思わず目を見開き、声にならない悲鳴をあげて写真を持っていた手が震える。臨也は一層笑顔を深めながら笑う。その表情に身体中から嫌な汗が出てくるのを感じた。





「よく撮れていると思わない?」










写真に写っていたのは、数人の男が血まみれになり倒れているモノだった。ある男は両手の指を切られ、ある男は目玉を無くし、ある男は足の骨が折れているようで変な方向に折れ曲がっている。
地獄絵図のような写真。
帝人は何となく分かった気がした。写真に写っている人達は今、自分の目の前で笑っている人がやったのだと。

帝人は写真に写りこんでいた男達を見たことがあった。紛れもなく自分に怪我を負わせた人達だったから……。


「臨也さん……もしかして…」
「怯えた顔しちゃって…可愛い」
「……この人達、殺して…?」
「ううん。残念ながらこんな屑のために殺人者にはなりたくないよ。今、新羅は大忙しだろうけど」
「…な、んで…そんな酷い事したんですか?」
「……酷い?」

冷たい目が帝人を映す。狂気の塊にも見えたそれにビクリと帝人は身体を強張らせると、臨也は今まで座っていた椅子から立ち上がり帝人が持ったままだった写真を奪い、棚に置く。

「帝人君は分かってない」

小さく呟くと帝人が寝ているベットの両端に手を置いて上半身だけ帝人に乗り上げるような形をとる。

「俺は君が好きだ、愛してる。監禁して、自分以外の存在を君の中から消してしまいたいくらい。なのにあの屑共は帝人君にこんな跡が残るかもしれない傷を負わせたんだよ?俺以外が残した傷跡なんて虫酸が走る」
「……っ」


狂気を含んだままの目が帝人を貫き、声が上手く出せないでいると臨也は唇に指を這わせる。





間もなくしてキスをされた。



帝人は臨也に狂った何かを感じたが、ただそのキスを受け止める事しかできなかった。







「……誰にも渡すものか」


END


我は災いの元
(傷付けていいのは)
(世界で俺、ただ一人だけ)



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