【桜色ファンクション】

□第三話:「当然の事ながら、それはそれ」
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※ ※ ※



 二つの影が重なり合う。
 制服姿の彼女達には場違いに映る真っ白で柔らかなベッド。二つの自重で深く、体が沈む。

 白く広いだけの部屋。

 そして……
 真樹は美野里にゆっくりと覆い被さると、これから行うであろう行為に邪魔な眼鏡を外した。
 美野里の吐息が真樹の耳朶を擽る程に頬を合わせて互いの心臓を押し当てる。
「服も邪魔だね」
 美野里は薄っすらと霞んだ瞳で真樹の首元を緩やかに束縛するリボンタイを緩めた。
「邪魔……服も……肌も」
 美野里は吐息混じりに呟くと……。

「!」
 真樹は目が覚めた。
 それと同時に無性に絶叫したくなった。
 何が如何言う状況で如何為ったのか全く理解出来ないで居た。
 それが夢だと判別できる頃――実際には10秒も経過していない――にはそれらの悪夢に類する淫らな夢は脳内の記憶を司る部位から雨散霧消していた。
 親友と信じて疑わない彼女が、小さなツインテールがチャーミングな彼女がまさか自分とその様な「間違えた」関係に発展するとは思えない……実際に有り得ない事が起きるからそれは「夢」であると断言できる材料になるのだが、中途半端に雑学を詰め込んでいる彼女には「夢は願望の現れである」と云う可能性も捨てきれないで居た。

 早朝の何時もの起床時間に、眠気も覚める夢で叩き起こされてもパジャマを脱ぎ捨てる頃には夢を見ていた事実も忘れていた。
 制服に着替えて登校の時刻には何時も通りの朝を迎えていた。
 その証拠に、登校途中に美野里と合流しても何の動揺も無く普通に肩を並べて楽しいお喋りで過ごす事が出来た。
 
 1時限目の予鈴が鳴るには充分な時間。教室にて。
「あのねぇ……」
 真樹は呆れ顔を隠さずに美野里のキョトンとしている様を見ながら言う。
「毎日がスクリーンのハリウッドスターみたいにアクセル全開な生活だなんて思わないでよ。フランク・キャンパーでも静かに生活しているわよ」
「……フランク・キャンパーって誰?」
 真樹は鞄の中身を取り出して1時限目に必要な教材を確認する。
 その机の傍で、隣の席の椅子を無断で拝借して座っている美野里は更に小首を可愛らしく捻る。
「んん?」
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