短編拳銃活劇単行本vol.1

□キサラギ・バラード
1ページ/54ページ

 友原三代(ともはら みかえ)。先月で23歳になった。この業界では若過ぎる方だ。最も、若いから腕前も若いとは限らない。後ろの暗い業界では人を外見と年齢で判断するのは危険だ。
 何もかもが平均的。それが彼女の外見上の最大の特徴。優れた体躯を持たない。優れた美貌に恵まれない。特筆すべき点が見つからない。雑踏に紛れ込めば明るい世界の住人と見間違えても仕方が無い。顔は知られている。知られているのは顔。名前は聞けば思い出す。特徴のある名前なのに記憶に残らないぬるりとした印象と発音の名前。
 彼女の身の上調書はそれ以上に特筆するところが無い。
 その仕事ぶりと彼女を比較しても、あの平均的な23歳女性の何処にそんな力が有ったのかと誰もが首を傾げる。
 恐ろしいのは……彼女は自分が平凡で何の変哲も無い姿をしていると云う自覚が有ることだ。この業界で生きていくのに必要とされるスキルは様々だが、街中を歩いていても誰にも気に止められない雰囲気を纏っているというのは大きな武器だ。
 そして、彼女の仕事は……暴力のレンタル屋だ。鉄火場を主にする荒事師に分類される職業。コロシが仕事ではない。飽く迄、暴力だけだ。殴りもするし締め上げもする。ナイフで突き刺す事もあるし焼け火箸を押し当てる事もする。
 だが、コロシ専門ではないし拷問係でもない。殺し屋ではない。髪の毛一本分の匙加減で絶妙な暴力を撒き散らすだけの鉄砲玉と紙一重の職掌だった。
 故に、加減のできる拳銃を常に懐に呑んでいた。
 彼女は職掌柄、フリーランスだ。何処の組織にも属さない。フリーランスという事は常にスケジュールやタスク管理は自分で行う。それだけに留まらず、出納管理も行うので他業種の事業者と連絡を取って連携する打ち合わせも一人で行っている。だからこそ、この業界で若いのだ。年齢が若いうちは必ず何処かの組織の庇護を受けながら実力をつけて独立をする。そのまま組織の出張所を任されることも多い。
 僅か23歳で実力もネームバリューもここまで広く浸透させるのは数少ない。
 間違い無しに腕利きだった。
 彼女の腕利きを証左する事柄として、如何にも素人が場当たり的に行った暴力犯罪を撒き散らすことだろう。プロが行ったと判断するのは難しい。報復活動を行おうにも彼女が遂行したと判断される事態は少ない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ