短編拳銃活劇単行本vol.1

□黒く深く悪い果実
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 腹の中で留まっている銃弾は恐らく9mmパラベラム。自分が左手に力なく携えているSIGザウエルP226と同じ弾薬を用いる。残弾6発。予備弾倉は無し。もういっそのこと自決してやろうか。震える指先で愛用のピースミディアムに火を点ける。今生最後の一服に自分が好きな煙草を味わうだけの時間が有った事に感謝。
 いかん……。目が霞んできた。三木田絵利と名乗ったあの賞金稼ぎはまだ登場しない。ざまあ見ろ。ここでくたばってやる。
「……!」
 思わず唇の端から短くなった煙草を落とした。霞む目の奥に……搬入口が開いたと思ったら逆光を背負って三木田絵利と思しきシルエットが近付いてきた。目が霞む。血液が足りない。少し寒気。幻を見るほどに生命力が弱っている。何しろ、三木田絵利の影が三つに分かれたのだ。
「はい。元気?」
 三木田絵利の声が聞こえる。
「モルヒネ。バイタルをとれ。この患者、『血が足りないだけだ』。弾の摘出は後だ。ストレッチャーは……待機してるな」
 三木田絵利の声にしては随分と野太い。
「!」
 まさかと思った。三木田絵利は確かに目前に居た。身長170cm余りで若々しい美貌。襟足の短いマッシュウルフの髪型で何処か無造作な仕上げ。170cmはある長身。ベージュのスラックスにミリタリーシャツをイメージしたようなオリーブドラブの裾の長いサマージャンパー。三木田絵利は無表情で自分を見下ろしている。そして自分の体に遠慮なく注射器を差し込んでいる2人は……医師だ。少なくとも真っ当な医師ではないが確実に処置を施しているのが遊離感を覚え始めた自分が体験している。痛みが和らぐ。少しだけ寒気が遠のく。今時時代遅れのモルヒネを投与された結果だろうか。安らかに眠れる安息感が湧いてくる。もうどうにでもなれ。左手から『重過ぎて引き金すら引けない』、愛用のSIGザウエルP226が滑り落ちる。永い相棒が乾いた音を立てて床に転がった瞬間に空中に引き揚げられる浮遊感を覚えて直後にゆっくり着地。朦朧とする頭脳では思考が追いつかないが自分の体がガタガタと揺れながら頭から地面に対して水平に移動を開始した。目の前が、世界がグルグルと廻る。
 そうだ。ストレッチャーだ。担架に乗せられて移動させられているんだ……。そこで彼の意識は途切れた。
 畜生め……。此処に来るのが遅かった理由は闇医者を手配していたからだな……。
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