短編拳銃活劇単行本vol.1

□遠い海の下
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 この殺し合いのゲームも各所に設けられたカメラで中継されている。それを見ながら博打のオッズが微調整される。自分がゲームの駒として承諾してこの場に臨んだ連中は一体どれほど居るだろう。少なくとも美華は報酬の打ち合わせの段階で後ろ暗い仕掛けが有る事を看破していた。唯の勢力争いとは思えない理由が有った。敵対する組織の背景を手繰り寄せればこの界隈を仕切る大手の3つの組織に集約されるのだ。それらを悟ることが出来ない末端組織の三下は組の命運を背負ってこのフィールドであるコンビナートに勇んで飛び込む。三下だけでは勝敗が荒れないので賭場としての魅力が薄い。故に金で雇われた、殺しを専門にする稼業の人間も投入される。その道のプロが何人送り込まれたのかは知らない。この場所に放り込まれると言うことは少なくともプロの看板を背負っていても毎日を生きていくので精一杯の駆け出しばかりだろう。軌道に乗ったプロなら、まず、この様な胡散臭い話には乗らない。残念な事に暫く仕事日照りで預金の残高が心許無い、軌道に乗っているはずのプロである美華はこの依頼を受けるしかなかった。ゲームの駒として参加すると言う名目では後に司直の手が入った時に3つの組織がそれぞれ、誤魔化しきれない部分が発生する。だからシンプルな筋書きの抗争の延長として鉄砲玉同士の衝突……曳いては弱小組織同士のいつもの抗争として片付けられるように仕組まれた物語が用意されている。依頼を受けて報酬の話を聞くうちにこの話のからくりを既に見破っていた美華だが、仕方なく引き受けた。仕事の規模としては難易度が高いものではない。『一定の条件の元、最後まで生き残れば』報酬がもらえる。それと同時に自分のような一応のプロが投入される賭場と言うことは何人かのプロも何かしらの理由で潜んでいるはずだ。最近の仕事日照りもこの時の為に3つの勢力が結託して態と自分に仕事を廻さなかったのではないかと勘繰ってしまう。
 午前8時から始まった実弾を用いたサバイバルゲーム。脱落していくのはイナセな若い三下ばかり。それぞれ用意された10人。今、美華の側には半数が生き残っている。
 ルールは正午までに生き残っていた勢力が勝ちで引き分けならサドンデスで試合続行……そんなところだろう。殺し合いに金で雇われる身分に落ちたかと情けなくなってくる。
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