短編拳銃活劇単行本vol.1

□遠い海の下
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 人探しから人殺しまで……そのように看板を掲げてはいるが、実際は人殺ししか依頼が来ない因果な殺し屋稼業に落ちぶれた芹野美華(せりの みか)だったが、心までは卑屈に折れていない心算だった。今もこうして笊で漉くって一山幾らの鉄砲玉を引き受けていたとしても自分が生きていくための手段でしかない。この仕事を蹴ってしまっては次回への仕事の糸口に繋がる可能性が低くなるからだ。自分の職掌が即ち自分の名刺である。
 右手にAPSグリップキットをグリップに組み込んだスチェッキンを携えて、左手に予備弾倉を保持したままカップ&ソーサーでアソセレススタンスもどきの構えで淡々と9mmマカロフを発砲する。セレクターを切り替えれば短機関銃のように有りっ丈の弾頭をばら撒くマシンピストルとして有名な大型拳銃のスチェッキンだが、現在はセレクターがセミオートに合わせられている。無駄弾をばら撒く主義ではない……と言うわけではない。単純にフルオート射撃の出番で無いだけだ。
 廃工場区域。港湾部。コンビナートの切り離された区画。人気が絶えて久しい。否、まともな人間がこの場所に踏み込まなくなってから久しい。日は高い。先ほど古いだけのタイメックスの腕時計は午前11時を報せていた。携帯電話のアンテナは不安定だが辛うじて通話できる。錆びの浮きが激しいコンビナート群は日中でも物悲しい雰囲気に包まれている。海からの潮風と鉄錆びの匂いが混じって情緒をぶち壊す。尤も、美華の陣取る場所からは海を一望できるわけも無く、海を眺めに来た訳でもないので問題は無い。遠くで、近くで、銃声。罵声。ヤクザ同士が実銃を用いてサバイバルゲームに洒落込んでいるのかと思うほど『長閑な空気』だ。然し、れっきとした殺し合いだ。三竦みでこのコンビナートに集団が放り込まれて互いを殺しあう。鉄砲玉同士で殺し合い、最後に生存した者が属する組織が『この賭場の勝者となる』……無意味な殺し合い。鉄砲玉と言うレッテルで塗り固められたゲームの駒。3つの勢力がそれぞれ用意した10人の……ゲームの駒同然の鉄砲玉で殺し合いを展開させてそれを博打の対象にする。それを鑑みるに、3つの勢力は均衡を上手く保っているのだ。シマの奪い合いや嫌がらせのカチコミとは違う。3つの勢力が手を結び合えるほどに平和なので共同で賭場が開けるのだ。
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