短編拳銃活劇単行本vol.1

□灰燼にKISS
2ページ/39ページ

「……!」
 特殊な遮光カーテンから漏れる外気を含んだ陽光に網膜を焼かれる感覚に陥る。毎回の事ながら、この瞬間に眼球が焼かれたのかと勘違いする。
 彼女……法笠華凪(ほうりゅう かなぎ)は白衣を着た女性スタッフが駆け寄って肩に掛けてくれた薄い清潔な白い衣服に袖を通して帯を締める。検診で着替えさせられる被験者用の白衣だ。
 立、横15m。高さ3m程の白い空間。先程の暗闇を提供していた遮光カーテンは部屋の隅に押しやられ、束ねてだらしなくカーテンレールにぶら下がっている。
 肩下30cm程の黒髪を無造作に束ねてゴムで纏める。今時珍しい活きた艶の有る黒い髪。極上の墨を溶いた様に美しいハイライトを描く。
 山猫より野犬を連想させる気性の荒そうなマスク。美貌と言うより抽象的でどちらかと言うと女性ホルモン多目な同性受けする容貌。
 165cmの身長に効率良く配置された筋骨は美しい造詣を保っていたが持ち主の彼女が粗雑に扱い過ぎるのか、万遍無く生傷の痕が見える。擦り傷、火傷、切り傷、縫い瑕に混じって鉤の字型の見慣れない瑕が右脇腹に確認できたが、それが銃創であると見抜ける者は彼女の周りで忙しなく後片付けをする女性スタッフ達の中には居なかった。法笠華凪と云う女性が持つグラマラスな肉体美を隙を窺って盗み見て溜息を漏らす者は多かったが。
 華凪は腕を組んで大きく溜息を吐いてはち切れんばかりの豊かな胸の内奥を空にした。
 無造作な髪を雀の尾羽の様に束ねた小柄な女性が赤いフレームの眼鏡を正しながら部屋の隅で壁に凭れて呆れ顔で立っている。
「ゴメン。駄目だった。また来る」
 華凪の苦笑い交じりの顔から出る台詞に対して眼鏡の女性は白衣の下からクラッシュプルーフのラッキーストライクを取り出して銜えた。表情は苦虫を100匹纏めて噛み潰した様に歪んでいる。平凡より僅かに童顔がチャーミングな顔付きのその女性は華凪と同じく26年間もこの世で生きているが、自分と同じ年齢の筈の華凪とは対照的に小型軽量な体躯で何処か自分を都合の良い妹か何かと勘違いしている節が有る口調に苛立ちを覚えていた。
 眼鏡の彼女は無言でそっぽを向くと華凪は眉毛をハの字に落として肩を竦める。そして女性スタッフが用意してくれていたサンダルを履いてこの部屋とドア1枚で直結している更衣室へ向かう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ