短編拳銃活劇単行本vol.1

□御旗を基に
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 真桐鉄英(しんどう かなえ)。
 地元の地域密着型カラーギャングの『リーダーだった』少女。
 当年19歳。女性だけで編成される社会不適格者の集団【紺兵党】(こんぺいとう)を3年前に組織したが、半年前に他所の地域から乗り込んできたチーマーにシマを奪われて事実上の解散を余儀無くされる。一挙に全てを失った訳ではなく、抗争の連続で疲弊し組織を維持する秩序が乱れた挙句に各個撃破されたのだ。抗争の中で命を落とす者も居た。刺殺、銃殺、扼殺。それらはまだマシに死ねた方だ。中には面白半分に直腸からウオッカを注入されて急性アルコール中毒で放置された侭死に到った者も居る。
 現在では屯を避けて一人で繁華街を徘徊している。決まったシマを持たず、気侭に社会の底辺を愉しんでいる身分を『見せ付けている』。
 実際は……実の所は……違う。
 報復活動を実行中だ。
 半年前に【紺兵党】を壊滅に追いやったチーマーは決まった呼称を持たず、流動的な活動形態で絨毯を広げる様にこの界隈を嘗め尽くした。推定するに50人近い戦力だと思われる。背後に暴力団との関係も噂され、反撃に出る勢力は悉く打ち倒されるか圧力で傘下に引き摺り込まれた。
 たった一人で。真桐鉄英と云う一個戦力で反旗は翻され、地味なゲリラ戦を展開中。
 その鉄英を常に傍で支える相棒が、経年劣化か耐用年数の超過でガタが来たので修理を依頼したのが、今回の【田巻銃砲店】での一幕だ。
「お嬢ちゃんが、何処でコイツを手に入れたのかは知らん。だがな……」
「何か問題でも有るの?」
 翳りの差す瞳で鉄英は田巻店主を優しく見据える。
 鉄英と田巻店主の間に横たわるカウンター上で静かに息付いているそれは中型の自動拳銃。
「金を積まれれば『何でも弄って見せる』。だが、『コイツは別物だ』」
 田巻店主は薄く生え始めた顎鬚を掻きながら眉間に皺を寄せる。その様を肩を竦めて鉄英は薄く笑う。「だから何なの?」と云うニュアンスを込めた、取るに足りない問題を一蹴する薄ら笑いだ。
 其処で大人しくしている『野獣』はベレッタM84。
 初期ロット生産分のコレクター垂涎の『2桁ナンバー』。しかも下2桁の番号の右に×印が打ち込まれたテストチェックモデル。後のM84Fでは廃止された刻印だ。
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