短編拳銃活劇単行本vol.1

□ワイルドピース
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「……」
 彼は苦難の数だけ刻んで来た皺が目立つ頬をグローブの様な掌で軽く撫でた。
 何時ものチェスト付きテーブルに座った時、到頭、両目が耄碌したのかと、久方振りに自身の健康を疑った。
 助手と迄は行かないが、依頼品や郵便物を何時も届けてくれる孫程歳の離れた青年が何かとサポートしてくれるのだが……。
「……」
 その青年は何時も通りに彼への届き物を指定の場所に置いただけだ。
 そもそも彼自身、酒を呑んでいたが、これしきで酔いが回るとは思えない。
 何度も眼を擦るが、埃が入っている訳ではない。
「……」
 単純に信じられなかった。
 それは……包みの一つを破ると、其処には修正液の後が目立つメモ書きが輪ゴムで巻き付けられて、古式床しいリボルバー拳銃が1挺、静かに座っていた。彼の知識では、確か、この拳銃にこの様な長さの銃身をしたモデルは存在しない筈だが……それ以前に、米国が中距離ミサイルをレーザー光線で迎撃する技術を確立した現在で『また、コイツと出会える』のが信じられなかった。
 彼は震える手で――決してアルコール依存の症例では無い――手紙を毟り取る。
 差出人は何と発音して良いのか解らないが、アドレスの末にJAPANと書かれていた。本文には「確実に作動する様に調整して欲しい」とだけ、蚯蚓がのたうつ様な汚い字で書かれていた。
「……」
 それからだろうか。
 彼がアンダースミスに堕ちて以来、初めて、アルコールを摂取する事を忘れて、『新しい金属で作られた旧い拳銃』のオーバーホールに全身全霊を注いだのは。

※ ※ ※


 一般的にフェザータッチと呼ばれている。
 引き金に羽が触れただけで簡単に撃鉄が雷管を叩く様を揶揄した呼び方だ。
 大多数のトリガーハッピーの指先は此れで構成されていると言っても過言では無い。
 異論は認める。
 何故なら、全自動火器やダブルアクションオートが跋扈する時代だからだ。その中に有ってリボルバーのトリガーハッピーと云うのは実は絶対数的に少ない。僅か5,6発しか装填出来ず、速射が利かず、ダブルアクション時の引き金が異常に重い。錯乱した中で悠長に撃鉄を起こして1発ずつ発砲するのはトリガーハッピーとは言わない。唯の精神障害だ。
 定義としては、トリガーハッピーとは発砲している間だけは自身の生命が存続出来ると思い込んで弾幕を張る人間を指す。
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