短編拳銃活劇単行本vol.1
□鏡に映る翳
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アナログ腕時計に視線を落とすと回転ベゼルが丁度、作戦実行を無音で報せていた。
｢さ。仕事の時間だ……働きますか……有耶無耶は生きて帰れたら幾らでも聞いてやる｣
彼女を筆頭に複数の人影はそれ迄潜んでいた大型トラックの物陰から自慢の得物を携えて飛び出した。
目標は｢スポンサー｣の敵対勢力の拠点である組事務所内の掃討。
毎度の事ながら生きて帰られる確率はフィフティフィフティ。この数字だけが彼女に生命の価値を推し量らせる事が出来る。
｢ガンホー！ ガンホー！｣
閑静な住宅街の真ん中に有る組事務所の引き戸を蹴破り雪崩れ込む。
踊る。彼女が踊る。
黒いポニーテールが揺れ、赤いチェック柄のプリーツスカートが靡く。靭かな肢体をぴっちりと包んだ黒いストッキングが駆けて、はち切れんばかりのバストを僅かにカバーしたデニム生地のベストが風を切る。
端正に整った童顔を悪戯っぽい破顔に崩し、蓮っ葉に手巻き煙草を唇の端に咥える。
黒いポニーテールをした身長164cmの死神は視界に入る有象無象の生きた標的に次々と45口径を放つ。
フィヨッキの45ACPは520Jの初活力で毎秒270mの鈍足で約15gのフルメタルジャケットを吐き出す。熱い弾頭は吸い込まれる様に標的の胸乃至腹に命中し、次々と無力化していく。得物を持った標的であろうが無かろうが関係無い。銃口の正面に立つ奴が標的だ。
89mmしか無い銃身故に45口径の反動は暴れ狂う。パラオーディナンスP-12自体がコンパクトなキャリーガンとしてカットダウンされたモデルだ。所謂、CQBのプロが使う戦闘用の拳銃では無い。
銃火が火線を引いて咲き乱れて轟音が耳を心地良く劈き鼻腔を硝煙が擽る。合間に聞こえる空薬莢が弾ける涼しい金属音が清涼剤宛らだ。
15gの鈍足な45口径で腹や胸を捉えられると杭でも打ち付けられた様な衝撃が全身に伝わり瞬間的に脱力する。対人停止力の高いソフトポイントやホローポイントを使用していれば尚、効果が高い。軍用フルメタルジャケットでも腹に2発も被弾すれば致命的な負傷になる。10m平方メートル以下の戦闘区域で日本人程度の容積をした｢軟らかい標的｣を無力化させるのには鳩尾に1発叩き込むだけで充分に致死量だと言えた。
何人の標的を屠ったのかは数えていないが、グリップの微妙な重心バランスの移動で弾倉交換の時期が判る。