短編拳銃活劇単行本vol.1

□貴(たか)い飛翔
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 尚、この男が言う所の弾薬……一般的な9mmパラベラム弾のフルメタルジャケット弾頭(弾頭重量8g)で比較した場合、初速毎秒341m、初活力468Jの数値を弾き出す事が出来る弾薬を指しているのである。同じ口径、薬莢長でも使っている炸薬の爆圧の高低で銃火器本体と相性の悪い種類が存在する。特に欧州メーカーが拵えた拳銃はヨーロピアンアモを基準にガスオペレーションが計算されている為に、他国の弾薬を用いて極端に相性の悪い事態に陥ると暴発や作動不良を起こす原因になる。
「スライドリリースを仕掛けるのに少し手間取ったが……」
 そこで男は少し息を呑んで必要以上に長く吐いた。短いトルコ巻を止めを刺す様に思いっきり吸い込んだのだ。
「モノは仕上げた。調整も済んだ。預かっている間にシュープス(錆止め)も滴る程に吹き付けてやった……好きなだけ使ってくれたら良い。インプレッションのレポートを提出してくれれば何に使おうが深くは訊かない」
 男は唇を火傷しそうな程短くなった両切りのトルコ巻を地面に落とすと爪先で揉み消した。
 ベレッタのコートを着た女。
 赤茶けたセミロングが170cm近い身長に映える。
 大きな栗色の瞳をした活発明朗で利発な面構えだったが、引き締まった唇や意志の強さを代弁する眉がそれらを帳消しにして、常に静かな爆弾を持ち歩いている雰囲気を醸し出していた。これでは折角のセクシャルな香りも彼方に消えてしまう。明らかに魅惑的な女性に分類される風貌をしていながら、それを活かそうと云う気概が全く感じられないのだ。
 発達した筋骨にバランス良く配置された滑らかな肉質は残念な事に野暮ったいハンティングコートの下に隠れてその一端も拝む事は出来ない。白魚の様に白くて細く長い指には特有の拳銃胼胝が出来ていた。それも両手に。
「弾薬の供給ルートと物資の運搬ルートは確保してあるわ。直ぐにでも職人魂を喜ばせるレポートが提出出来そうよ……それ迄待っていてね、『マイスター』」
「そう願いたいね……フルオートだの3バーストだの、最近はそんな下らないオマケを組み込む依頼しか無かったんでな。気が晴れるネタが早く欲しいね」
「期待して……それより早く交換パーツの製作に掛かって頂戴」
「職人の気分に口出しするんじゃねぇよ」
 職人の臍を曲げた事に彼女は軽く肩を竦めて見せた。
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