短編拳銃活劇単行本vol.1

□凶銃の寂寥
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 嘗ての英国特別航空任務部隊ことSASもフルオート機構を搭載したブローニングハイパワーを大量に納品させていた。勿論、民間には一切販売されず、それ所か情報統制が厳しかった為にFN社はフルオートのブローニングハイパワーを製造していた事すら公表していなかった。
 女が持つブローニングハイパワーはFN社が未だイラク国軍と取引の有った時代に製造された物で有る事は想像に難くない。
 左グリップパネル底部にランヤードリングが付属したミリタリーモデルのブローニングハイパワーを左脇に滑り込ませるとジャンパーの左ハンドウォームから黒いニット帽を取り出して無造作に被る。
 癖の有る、人に拠っては葉巻愛好家でも顔を顰めるインドネシアシガーの紫煙を軽く吐いて踵を返す。
 女。
 何処にでも居る平凡な日本人顔。特徴が無いと言うのが特徴だろうか?
 雑踏に紛れて汚れた空気を泳ぐには都合の好い顔付き。背丈が少しばかり高い。併し、それも常識の範囲内での事象。
 女。
 殺し屋と名乗らずガンマンと名乗る古風な気質を持つ性格。誰にも飼われる事も無く、必要とあらば暴力を依頼人が望むだけの分量を髪の毛一本のレベルで提供するプロの拳銃使い。
 女。
 その女の名は早坂美哉(はやさか みかな)。30代前半の風貌をした暗黒社会の住人だ。明るいブラウンに染めたセミロングもカジュアルな服装も彼女を一般人に「変装」させる道具でしかない。
 確かに。
 懐にブローニングハイパワーを忍ばせている事とビリガーエクスポートをこよなく愛している事を除けば普通の人間だ。
 だが、「依頼が無ければ無益な殺傷行為を行わない点が殺し屋との相違点だ」。
 依頼が有ろうと無かろうと、拳銃稼業に生きる人間故に降りかかる火の粉は全て実力を以って排除する。また、ガンマンとしての看板に泥を塗られると報復行動に出る事も屡有る。
 荒事全て此、ビジネス。
 彼女が現れて空薬莢が撒き散らされずに済む事は無い。好きでサディスティックに傷め付けている訳ではない。彼女を女だと言う理由で侮辱する方が悪い。堪忍袋の緒がフェザータッチで簡単に切れる訳ではない。飽く迄も、侮辱は看過できないのだ。
 詰まる所、彼女が引き金を引く理由は3つ。
 ガンマンを馬鹿にする奴は許せない。
 自分を馬鹿にする奴は許せない。
 暗黒社会を舐めている奴は許せない。
 この3つが彼女の逆鱗だ。
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