短編拳銃活劇単行本vol.1

□斃れる迄は振り向くな
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 それだけ殺し屋が一般的な職業として市井に浸透し、殺し屋稼業を営む人間も真っ当なビジネスだと勘違いを始めているからだ。
 ファッション感覚で殺人代行をマネージメントする商売も流行りだした。
 一昔前に囃された審判の日とやらはサバを読んで違う形態を以って訪れているのかも知れない。
 殺し屋と云う反社会性の強い職業が流行りだした理由は、単純に人間が人間を殺す事に娯楽性を求めた結果だった。銃火器犯罪が台頭し始める頃と重なったので、その発生件数は凋落を知らない。
 そもそも銃火器犯罪を始めとする凶悪犯罪に分類される事件が治安国家の世界的手本であった日本を暗黒に染め上げたのは冷戦構造の表世界での終了が発端だった。
 極単純な3段論法じみた公式。
 戦争終了。あぶれる武器。非公式組織による武器売買。
 それだけの簡単な理由。
 その理由が日本を侵食するのに大した時間は掛からなかった。
 海外の民間軍事企業が日本にカウンタークライムをレクチャーする為に躍起になっているのも頷ける話だ。
 堅気の民間人でさえ、携帯電話のアドレスには必ず非合法商品を扱う商社が登録されている、と揶揄される。
 小学校の中で小学生同士が護身用に持たされたポケットオートで銃撃戦を展開する混沌振りは「古き良き時代」の影も形も無い。
 俄かに店開きした殺し屋も中学生から定年退職した世代まで様々。
 誰が教える訳でもない殺しの手段。実包が送り込まれた自動拳銃の引き金を引くだけ。今時、狙撃銃を用いて1発で仕留めると云う「旧い技」を使う殺し屋は天然記念物だ。命懸けの鉄砲玉と呼ばれるヤクザの特攻隊も見かけなくなった。敵対ヤクザの幹部が乗る車ごと、携行対戦車兵器で葬るのがトレンドだ。白鞘握ってサラシを巻く時代は終わった。任侠を重んじるヤクザなど絶滅危惧種だ。
 誰も彼もが銃を握る事が出来る時代。
 なのに誰も彼もが手を汚す事を面倒臭がる時代。
 それでも殺してやりたい人間の10人や20人は誰でも心に留めている時代。
 そして、求められて現れた……時代が生んだ職業。
 『インスタント・キラー』


 柳原七佳。27歳。女性。
 身長170cm。体重55kg。90・67(D)・94。
 先天的に色素の薄い髪。艶を失わない健康的なロングヘア。左眼の色素も先天性のオッドアイで栗色。視力に異常は無い。
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