短編拳銃活劇単行本vol.1

□RAID!
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 歪みを見せる腰でしずしずと歩みを進めると部屋の片隅で酷い埃を被っているゼロハリバートンの小型トランクを手に取った。
「あっ! ミズ! 私がお持ち致します!」
 男は慌てて老婆に向き直ると恭しく瑕だらけのトランクのグリップを握った。A4サイズのブリーフケース程の大きさだがボーリング球でも入っているかの様に重い。
「あら、有難う。安心したわ。この『業界』にもまだ紳士は居たのね」
 ミズ・ダストペリは大袈裟に目を丸くして驚いた。
「それじゃ、荷物を持って貰った序にお願いが有るのだけれど……聞いて頂けるかしら?」
「……? は。何用で御座いましょう?」
 男は訝しげな表情を浮かべて、中空にスモークリングを悠々と作る老婆を見る。
「本当に申し訳ないのだけれども……その荷物をあの“やんちゃ”に渡してあげて下さいな」
 男の双眸が歓喜を湛えてみるみる大きくなる。
「そ、それでは!」
「ああ。勘違いしないでね……本当に救い様が無い死に損ない達が集まって、お茶を飲みながら作った『民芸品』よ。そんな失礼な品物を他人様にお渡しするなんて事は出来ないわ」
「それではこの件を……お孫さんのお力を貸して頂けると!」
「あらあら。『そう言う風に解釈されたのなら仕方ないわね。それではそう言う事でも良いわよ』」
 ミズ・ダストペリは苦難の末に刻みえる事が出来た皺を顔に浮かべると、ぷい、とそっぽを向いてロッキングチェアに踵を返した。
「ああ。でも。貴方の説かれた主義は筋の通った極論だけれども、必ずしも真点を射抜いた正論ではないわ……自信が有るのなら、その論理であの“やんちゃ”を扱ってみなさいな」
 男は深々と一礼すると軽金属製トランクケースを右手に、一人の老婆が余生を過ごすには少し広い殺風景な部屋を出た。
「……」
 暫くして表で咳き込む様な排気音の自動車が出発する様子が音で解った。
「……いつの時代でも理由なんて関係無しに血の雨は『必要とされるのね』」
 ミズ・ダストペリが腰掛けるとロッキングチェアはキィと軋んで心地良く揺れた。
 





 1ヵ月後。
 日本。某県某市にて。


 市警に男の声で匿名の電話が一本。発信元は市内の公衆電話。
 山中に死体を埋めたので掘り返してみろ、との用件だった。
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