短編拳銃活劇単行本vol.1

□山猫は雨に跳ぶ
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 無意味な慈悲や無駄な弾丸は一切使わず、表情の無い顔で側頭部を一発で撃ち抜く。
 全員例外無く拝む様に命乞いをしていたが、重傷者は生存者が始末しろと決められたルールだった。その後始末的行為に発生する前金も貰っていた。
 硝煙の香が朝靄の静謐な空気を汚す。僅かに脂分が混じった生臭い異臭が漂っているがそれは彼女の9mmマカロフ弾によって造り出された死体から発せられているのは言うまでも無い。早速死臭を嗅ぎ付けた猛禽類の様な獰猛さを持った烏が早朝の村落上空を舞っている。


 彼女は火を点けていないキースマイルドを咥えながら朝靄の深い山林へと姿を眩まして行った。


 未明から展開された謎の一団に拠る銃撃戦はこの地方の新聞で片隅に報じられた程度でマスコミは別のもっと大きなセンセーショナルな事件に喰い付いてそれ以上全く興味を示さなかった。
 民間人が標的でない事と「極有り触れた安物拳銃を用いた銃火器犯罪」と云う観点から、極少数の警察官で構成された捜査班は早々と捜査を切り上げた。
 今時、マカロフだのトカレフだのフィリピン製密造拳銃だのを用いた末端組織のイザコザよりも現物の水揚げの現場を押える事の方が何よりも優先される事項だからだ。正直な所、チンピラ同士の殺し合いには何の興味も無い。この程度の銃撃戦なら毎日、日本のどこかで十数件も起きている。その度に大した収穫無しに捜査班は解散している。事件の数だけ捜査班を結成していたら日本の人口より警察官の方が多くなる。
 最近の傾向なのか、重傷者を口封じの為に射殺すると云う行為が横行している為に拍車を掛ける様に糸口が掴み難くなっている。下っ端の構成員や若年層のギャング集団程、トカゲの尻尾切りの如く命を簡単に吹き消している。
 今の所、「良識有る」反社会集団は堅気の人間には手を出さないで居るが、それは組織としての看板と体面を守るためだけの姑息な口上で実際は何の縁も所縁も無い組織を装っている使い捨ての即席暴力団がこれまでと変わらない……否、これまで以上に熾烈な生存競争を繰り返している。甘い顔をすれば次に淘汰されるのは自分達かも知れないからだ。……結局、何処の誰が大ボスで誰の命令で自分の所属する組織が行動に出ているのかも知らされないまま大半は「消えていく」。
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