短編拳銃活劇単行本vol.1

□山猫は雨に跳ぶ
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 夜風を裂いて銃弾が飛び交う。
 平穏で温和な空気が漂う山間部の山村での出来事だ。


 どれ位の銃弾を吐き出したのか知れない。愛用のマカロフPMM‐12が熱膨張を起こして破裂するのではないかと思われた。幸い、他所の業種に籍を置く先輩格の拳銃使いからは「土壇場でも頼りになるのは共産圏の鉄砲だ」と聞かされていた為にこの拳銃を択んだのだが、それは正解だった。特徴的なフルーティッドチェンバーが桃色に変色して、その熱がグリップに伝わってきても確かなシューティングフィーリングを提供してくれた。
 お互いの勢力がかれこれ1時間以上人工的な光源に乏しい小さな村落で銃撃戦を展開していたが彼女が吐き出した9mmPMM弾以外は標的を捉えていない様だ。徒に空薬莢が弾き出される涼しい金属音が連なり、所々で銃火が交錯しているが、決定打に欠けている。
 トリガーハッピー気味に乱射しているだけの三下連中が殆どだ。
 此方にも連中の中にもまともな拳銃使いが少ない結果だった。乱暴な言い方をすれば約20人対同数のナイトゲーム――夜間に行われるサバイバルゲーム――以上の展開を見せなかった。
 夜間でも照準が定め易い蛍光白色ドットを打ち込んだマカロフPMM-12だったが、ここ迄暗く、敵味方構わず発砲する馬鹿供でごった返していたのでは新品のマカロフ2挺分の価格とそれに伴う実力と経験を積んでいる彼女はウンザリ気味で9mmPMM弾を撃ち返していた。
 空が白み始める頃になると優れたストッピングパワーを発揮する高価な9mmPMM弾を撃つよりも、それと同寸の従来の9mmマカロフ弾を詰めた予備の弾倉で叛撃していた。
 村落の住民は銃撃戦が始まってからと言うもの、戸内に篭ったまま電話線が外部に繋がらない様に細工されて孤立した電話を呪ったまま震えていた。この村落が有る地域は携帯電話の圏外だ。
 それが幸いでも不幸でも有った。
 携帯電話が使えない為に銃撃戦を切り上げる為の伝達手段すら封じられているのだ。恐怖を紛らわせる為に合成麻薬で景気付けをした連中が理性的に恐怖を感じながら命の遣り取りを行える訳が無い。
 薬物の効果が切れて手持ちの弾丸が尽きた連中は我先に遁走を開始する。
 彼女は舌打ちしながら重傷を負って死に切れないで居る敵味方連中を無造作に屠殺して廻る。
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